バイク便と革ジャケット

 

ふと思い出した。

20代の半ば頃、ちょっとだけバイク便でバイトをしていたのだった。

きかっけは、三好礼子。

 

何でも彼女の真似をしたかった。

もう、三好礼子そのものになりたかった。

 

だから、彼女がやっていたバイク便とやらをやってみたかった。

かなりの勇気が必要だったけど、わたしはその扉をたたいた。

 

バイク便でよく乗っていたのは、忘れもしないHONDAのFTRだ。

ごめん、はっきりいって嫌いだ。

 

FTRではよく転倒した。

荷台に積んだ箱が重いのだ。

バイクが軽いのか?

 

自分が下手だっただけのことだが。

とにかくよくこけた。

Uターンと道端に止めたときに高い確率でこけた。

 

ハンドルが切れすぎるのか?

いや、自分の技量が無さすぎたのだ。

やはり、無理に取り付けられた箱が重いのだ。

 

そんな自分を良くかばってくれた青年がいた。

けっこう仲良くしていたことを今思いだした。

 

彼は、もらい物だけど自分には似合わない、○○さんには似合いそうだからとエアフォースの革ジャケットをくれた。

大きくてダボダボだったが、それが可愛いと思ったのかもしれない。

 

喜んでいただいたのはいいが、着こなせずに何度も鏡を見ては諦めた。

どこかに仕舞い込んで、もうどこへ行ったのかもわからない。

 

ジャケットをくれた青年の名前も顔も思い出せない。

大切な出会いをみんな風の中に飛ばしてしまった。

 

そしてわたしは三好礼子にもなれなかった。

親や当時交際していた人の反対にあって、あっけなくバイトをやめた。

 

 

限られた時間で目的の場所に大事なものを届ける、エキサイティングな仕事だった。

必死で走る自分がけっこう好きだった。

 

 

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