彼らの旅 私の旅 旅の始まり 見知らぬ客

「こんばんは」

「おー、久しぶりじゃないか」

「そうね」

 

いつものカウンター席につき、ため息をついた。

 

「なんだ、ため息なんて。何かあった?」

「ううん。特に何も無いわ」

「あんたが来ない間にいろいろあったんだぜ」

「そうなの?」

 

彼は注文前の私の前に勝手に瓶ビールとグラスを置き、久しぶりのタコウィンナー炒めの乗った波の絵の皿を置いた。

 

「とんずらさんと青年が旅に出たよ」

「えっ?」

「とうとう実現したんだよ。ってか、実現しつつあるんだよ」

「それって2台のWで日本一周ってこと?」

「そうだよ、その通り」

「わお!なんて素敵な話なの」

 

「それとさ、あんたに客が来たよ」

「え?何それ」

「西の方から来たって言ってたな」

「え?」

「野宿しながら3日かかったって言ってた」

「で、あんたが居ないって知って、コーラフロートだけ飲んで店を出てったよ」

 

「誰かしら。託とか無いの?」

「ああ。あんたに知らせようかって言ったら、伝えないでくれって」

「バイク乗り?もしかしてオフ車?」

「そう、2台持ってるって言ってたな」

 

「あ、わかったわ!」

「知り合いか?」

「そうね、SNSつながりのとてもいい感じの人。言うならば、流離いのスナフキン」

「スナフキンか、そう言われるとそんなふうな風貌だった」

「来たんだ、彼。何も言わずに。また夜中に走って帰っちゃったのかな。彼らしいわ」

 

「他に何か言ってた?」

「ああ、牛タンとずんだ餅、それと寿司をテイクアウトで食ったって言ってたぜ。かなり満足してた様子だった」

「それは良かった」

 

会ってみたかった。流離いのスナフキン。私もかなりスナフキンタイプだが、彼はスナフキンそのもののような印象をSNS上に醸し出していた。

 

「あ、そうだ。預かりものがあったんだ」

「ん?」

「これこれ、何だろうな」

 

手渡された白い袋の中から出てきたのは、お守りだった。知らない神社の名前が刺繍されていた。美しいデザインのお守り袋はターコイズブルーだった。反対側には身代守と刺繍されていた。

 

お礼をしたかったけれど、SNSで呟くのはやめておいた。そっとしておこうと思った。ほんの少し、暗号のようなつぶやきをしてみた。きっとスナフキンさんならわかってくれるだろう。

 

「彼ら、今どのあたりかしら」

「Wの2人か?」

「そう」

「これから冬本番だから、西へ向かうと言ってたよ」

 

「たぶん関東から東海へ向かうんじゃないかな。あのあたりが日本の冬では一番暖かいだろうから」

「仕事も学校もあるから、一気に回るんじゃなくて、時期と地方を区切って周るらしいよ」

 

タコウィンナーをつまみながら、ビールをほぼ飲みほそうとしていた。空腹が満たされず、塩焼きそばとポテトフライを注文した。お酒は何が合うだろう。そんなことを考えていたら、店内が混んできて、彼らの話はそれきりとなった。

 

焼きそばとポテトフライを食べ、コークハイを一杯飲んだ。それでも何か物足りなさを覚えつつ、賑わう店を後にした。

 

部屋に戻り、自転車に乗ってハマさんの家へ向かった。デイパックの中に、簡単な着替えとパジャマを入れて。今夜はハマさんの家に泊まろうと決めていた。

 

おわり  まあ、続くでしょう

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