
「こんばんは」
「おー」
「いいとこに来た」
「なになに?」
「いま出来立てほやほや」
「何がほやほやなのよ?」
「冬至かぼちゃ」
いつものカウンター席に着く。
小皿に少しだけ、かぼちゃに小豆が乗ったものが出てきた。
「味見」
「あらあら、そうなの」
「どお?」
「お、見た目よりずっと美味しい」
不満げな顔で、マスターは私のボトルを棚から下ろしてカウンターに乗せた。
「ねえ、冬至かぼちゃにウイスキーって合うのかしら?」
「合うだろう、そりゃ」
なんだか、今夜はいいかげんな雰囲気のマスターだ。
「それで、どうよ、そっちは」
「え?何が?」
「彼氏とうまくいってんのかよ」
「え?彼氏?・・・」
「あ、そうそう、彼氏ね。ラブラブよ」
「で?走ってんのかよ」
「え?なに、バレてるの?」
「だから、言っただろう、あんたのことは何でもお見通しだって」
無神経そうなカウンターの中の彼は、本人が言うよりももっと私のことを知っているのかもしれない。
そんな気がして、すこしだけドキドキした。
「あのね、GAERNE 買ったの」
「ガエルネって、オフロードのブーツか?」
「そうそう」
「またレンタルでセロー乗るのか?」
「ううん、違う。SRよ」
「ほほう、SRにオフロードブーツ」
「そうよ、素敵でしょ?」
「まあ、どうだろね」
斜め上に視線を向けて、マスターはGAERNEを履いてSRに乗る私を想像しているようだ。
「ジャケットは何にするんだ?」
「そうなのよ、それが問題」
「どこかの軍隊のフライトジャケットとかどうかなと思ってるんだけど」
「なるほど、カッコいいかもな。女には見えないだろうけど、似合いそうだ」
「でた」
「で、いつ走るんだ?」
「まだ寒いでしょう?路面が凍結するし、危ないから乗らないわ」
「もしかして、春まで乗らない気か?」
「そうなるかしら」
マスターは両掌を上に向けて、呆れているようなポーズをする。
だけど、私はまだ彼にガレージでのことを話していない。自分だけの至福な時間のことはまだ秘密にしている。
「はい、お通し」
「あら、銀杏」
「そう、冬至には、ん、がふたつ付くものを食べると運が付くらしいぜ」
「そうなの?やったー!」
カウンターの上には小ぶりのペンチも置かれていた。小鉢には、大盛りの冬至かぼちゃが盛り付けられていた。
おわり つづく
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