
「今夜は赤ワインの気分。お通しは何なの?」
「かっぱえびせん」
「え、そんなぁ・・・」
「んなわけないだろう、ミニトマトのカプレーゼだよ」
「やったー!ワイン、ワイン」
「ところでさ、こないだの留守番さんたちと話して、何か答え出たの?今頃だけど」
「え、それ、もう言ったんじゃなかったかしら」
「いや、聞いてないぞ」
「北海道へ行く、それが答えよ」
「え?あ、そうか、そういうことね」
「え?わかったの?」
「まあ、なんとなく。私は乗ります、走ります、そういうことだろ?」
「簡単に言えばそうだけど。留守番さんたちから学んだことはたくさんあるわ」
「人生を楽しむこと。自分の心に素直であること。いつまでも子供のように無邪気であること。好きなことはつべこべ言わずに続けること。そして、まず行動あるのみ。留守番さんたちは、みんなそんな感じだった気がするわ」
「彼らだって、ずっとそうだったわけじゃないんだ。紆余曲折を経て、今があるんだよ。仕事、家庭、諸々の苦労を超えての今、だからこそなんだと思うよ」
「そうね、奥深い何かがあったような気もするわね。彼らの優しさと、見えない心遣いのようなものには」
「北海道で再会できるといいな」
「ほんと。会えたら泣くかも」
ドアが開いた。
「こんばんは」
「あ、ミリオンさん!」
「お久しぶりですね」
「ええ、ちょっと出張でこちらへ来たので、今日は帰らずにそこのホテルにチェックインしました」
「そうですか。じゃあ、ゆっくりできますね」
マスターは棚からミリオンダラーベイベーと書かれた名札の付いたウィスキーのボトルを下ろした。
「ロックでお願いします」
「はいよ」
「ミリオンさん、なんとなく元気なさそうだけど・・・どうかされました?」
「ええ、いろいろとありましてね。公私ともに」
「そうなんですか」
「ナポリタンいただこうかな。夕飯まだなんで」
「がってんだ」
「マスター、ミリオンさんが元気出るようにタコウィンナー大盛りにしてあげて」
「よろこんで!」
「おお、それは嬉しい」
ミリオンさんは、元気のない理由を語ろうとはしなかった。ただ、静かに微笑んで、美味しそうに宮城狭のロックを舐めて、ナポリタンを頬張っていた。
「そうだ、マスター!ミリオンさんも誘っちゃう?」
「おお、そうだな、ぜひ!」
「何のことですか?」
「私たち、先日の留守番さんたちも誘って2ヶ月後に北海道へ行くのよ。ミリオンさんもどおかなと思って」
「その話、SNSで見てました。いいですね。ぜひ私も行きたい・・・しかし、この先の予定が全くわかりません」
「じつは、留守番さんたちもほとんど予定が未定で、行けるかどうかわからないの」
「俺とカモシカくんとソーダ水の君、ミュージシャンは確定なんだけどね」
「まあ、来れたら来てよ。基本全員ソロツーリングで、決まった日にちに決まった場所で1泊か2泊して宴会をしようと思ってるんで」
「ええ、なんとか休暇が取れるように尽力してみます」
ミリオンさんは、やはり元気が無さそうな顔でほほ笑んだ。何があったのだろう。
「あ、私もタコウィンナー乗っけのナポリタンお願い」
「あいよ」
ミリオンさんに何があったかわからないが、私の食欲は衰えることを知らない。
人生は、que será, seráだ。
つづく
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