ジャズバーで「北海道のトリセツ」のページをめくりながらジャズを聴き、美味いつまみと「泡」を飲んでいる。
スパークリングワインを注文したら、店の奥様が「泡お願いします」とご主人におっしゃったのだ。専門用語だろうか。
曲はアフリカの後、しばらく退屈な、いや穏やかで美しいピアノの曲が続いた。本に飽きた頃、目の前の妙な形をした巨大なスピーカーからドラムスの音が溢れてきた。
激しい曲をとリクエストした私への曲はこれだったのだ。これでもかと叩き出されるドラムスの音の洪水。
ふと笑いがこぼれそうだったが、妙齢の女性1人がひとりで笑う姿はさぞ怖いだろうと、本をめくってごまかした。
「北海道のトリセツ」の中に、私が欲しかった情報は見つけられなかった。いや、ひとつだけあった。
無意識の領域をふと刺激した地名、神居古潭、カムイコタン。そこへは行くべきだとなぜか思えた。旅程に組み込もう。
あとは、動画を見て憧れていた「白い道」だ。稚内市宗谷村宗谷にある、ホタテの貝殻が敷き詰められた真っ白い道だ。
旭川にいるハマさんを訪ねる目的もあるが、それらはごく自然な道程の上にある。無理のないルートで結ばれているのだ。
旭川まではソーダ水の君と一緒に走ることになっている。ソーダ水の君が乗っていくSR400はハマさんから私が譲り受けたものだから、ある意味里帰りなのだ。
苫小牧港から旭川まではどうしよう。途中1泊するか、長距離を走り慣れていない女性2人だから2泊すべきか。
もう1冊持参した本「北海道図鑑」を開く気にはなれなかった。濃厚なスパークリングワインにほろ酔い状態ではあったが、たった1人の客であることの緊張感もあり、1時間半聞き続けたJAZZにも少し疲れた。
本をバッグに仕舞って店を出ることにした。ドラムの曲はどうでした?たいしたことなかったですか?と店主に聞かれ、すごかったですよと私は答えた。
せっかくだからと、曲名をメモしてもらった。
Moose the Mooshe / The Great Jazz Trio / Dr. Tony Williams
たった一杯のスパークリングワインで足まで酔いが回っていた。外は快晴の午後、世の中はGW真っ最中だ。
公園では子供たちが遊んでいる。風が少し強いが、気温が高いので心地よい。いい気分だ。
産直市場で花や野菜を買い、電車に乗った。GWの人出はかなりのものだったから、松島海岸から乗ってくる観光客の多さを覚悟したが、運よくその駅始発の電車で空いていた。
着いた駅から自宅へ歩く途中、ツアラーが何台か走り行く姿を目にした。一台はタンデムだ。ほとんどが大きなリアボックスを積んでいる。
旅するオートバイ乗りたちだ。素直に羨ましいと思えた。まるで、渡り鳥か何かのように、季節を追いかけて移動してくる野生の動物のように思えた。
彼らはみな威風堂々としていて、そして美しかった。エンジン音が深く心臓へ響き、背中へ抜けた。
つづく
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