彼らの旅 私の旅 SSTR20230527(創作です)

「こんばんわ」

「お、また来たな。あと少しで北海道行きだぜ、大丈夫なのか?」

 

「だって、あの3人組の2人がラリー本番でしょう?今日。1人で応援してたけど、話したいじゃない、いろいろと」

「まあ、それはわかるけど」

 

「うちでゴール付近となぎさドライブウェイのライブ映像とSSTRのシステムを見ながら応援してたんだけど、すごかったわねあの台数の多さったら」

 

「やつらもだけど、今日は鹿児島と下北からの強者がいたな」

「見た見た。すごいスピードで進んでたわね鹿児島出発のニンジャ」

「俺も見てたけど、やっぱKAWASAKI乗りは漢だな」

 

「下北半島から出発のセローも淡々と順調に余裕でゴールしてたわね」

「ああ、ナチュラルな漢て感じかなYAMAHA乗りは。すごそうじゃないのになんかすごい」

 

「夕陽は途中で雲に入っちゃったわね。彼らは見れたのかしら」

「まあ、日没前にゴールできただけいいんじゃね」

 

「日没数分前にゴールだったらしいよ。やはりルートの途中でグーグルマップに妙な道に誘導されたらしい」

「で、どうしたの?」

 

「やつら素直だからそのまま進んだら行き止まりだったらしいよ。けものみちみたいになってたとか」

「引き返して無駄な時間を使ってしまったのね」

 

「グーグルマップはすごい便利だと思うけど、ときどきポカやらかすのよね。余計な情報ありすぎっていうか」

「そうだな、主要な道だけピックアップしてくれても良いかもな」

 

「ちなみに私は紙の地図で北海道を走るから関係ないけどね」

「お、まだスマホ無しだっけ?」

 

「そうよ。私には不要な気がしてならないの」

「こだわるなぁ。世の中の流れに合わせるのも大事だぜ」

 

「そうかしら」

「ああ、一応使ってみてそれでも不要ならそれが正解ってことでもいいんじゃないか?」

 

「でも私にはお金の余裕が無いのよ。3千円あったらガソリンがかなり買えるし」

「まあな。相変わらずサバイバルな人生だな、カモシカくんは」

 

「今日カフェで読んだ丸山健二も書いていたわ」

「なんて?」

 

〈たとえば、オートバイにまたがって走り出した途端にそれがいったい誰の人生なのかわかるとか、たとえば、急カーブをマシンと一緒に体を倒して曲がって行くときなどに、能動的な生き方がどうしても必要だと悟るとか、・・・〉

 

「え、で、どうつながるのさ、サバイバルな人生と」

「だからぁ、私の人生に世の中の常識は不要ってことよ」

 

「頑固だなぁ、相変わらず」

「そうかしら」

 

「まあ、今夜は欅の自家製ジンジャーエール割りでも飲んで、早く帰って寝ろ。飯は?」

「タコウィンナーとおにぎりとか食べたい気分だけど、ご飯無いわよね~」

 

「あるよ」

「え?何があるって?」

 

「白飯。具は鮭とかでいいのか?」

「なにそれ、最高じゃない!」

 

「で、ぬか漬けとか欲しくない?」

「まさか・・・あるの?」

 

「あるよ」

「信じられない、何なのこの店」

 

SSTRを無事完走した2人の常連さんの笑顔をマスターのスマホで見ながら、おにぎりを食べ、タコウィンナーを頬張った。

 

SSTRへの参戦は、彼らにとって一生の思い出、大切な経験になるに違いない。大人になるにつれ、損得勘定無しで本気で死に物狂いで何かを行うということが無くなるからだ。

 

SSTRという、日の出から日の入りまでの時間で太平洋岸から千里浜まで、自分で決めた好きな場所と距離を走り通す、それだけのラリーに本気になれる大人なんて、素敵でしかない。

 

地元のクラフトジン欅のジン・バックは最高に美味しかった。生姜の効いたジンジャーエールはマスターの手作りだ。

 

お猪口に欅のストレートをもらって舐めた。セリ、柚子、茶葉、ぶどう、ジュニパーベリー、コリアンダーシード、それらの風味が絶妙にブレンドされていた。

 

欅の美味しさに、しばしすべてを忘れていた。5日後には、仙台港からフェリーに乗り、北海道へ渡るのだ。出航は6月1日(木)19時40分。急に胸がドキドキしてきた。

 

今夜はちゃんと支払いをして、早々に帰宅した。もうすぐ北海道だ。

 

つづく

 

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