さて、5月某日、出会い系で知り合った初多面の自称ライダーと、ちっこいオープンカーでバイク屋巡りをした。いや、連れていってもらった。
お相手さんは待ち合わせの駅のロータリーの片隅の車の中でハンドルに突っ伏すようにうつむいていた。私が近づいていくのも気づかずに。
オープンカーの屋根は閉じられていたが、天気が案外いいですねという話題のあと、走りだして間もなく開けてもらった。閉塞感が気になったからだ。
女性ものの帽子を渡されてかぶった。持参の透明サングラスをかけた。窓を下ろさずに天井を開けていると、風は入り込んでこない。けっこう快適だった。
バイパスを飛ばして服部KAWASAKIへ。既にグーバイクで調べてあった250TRを見に行ったのだ。目立つ場所にはすでに置かれておらず、奥の方に3台並べてあった。価格は50万円前後。
白いタンク2台、KAWASAKIグリーン1台。グリーンのみインジェクションで、白はキャプレターだそうだ。お値段的には白が低い。1台はいじられていて、1台はほぼノーマルだ。
ノーマルの白がちょっと高かった。連れもいるし、緊張もさほどしていないので跨らせてもらった。足つきはバッチリだ。
しかし、3台ともなぜか輝いて見えなかった。対面した感動は薄かった。金属部分が塗装されているためだったのか?
ネットで中古車選びについて調べた時、3つのポイントのうちの1つに、第一印象で輝いて見えたものがいいとあった。
ショップのスタッフさんは、けっこうベテランの男性で、感じの良い接客をしてくれた。買える可能性は低いが、せっかくだからと見積もりとローンのシミュレーションをしてもらった。
かなり長期にはなるが、月々1万円も払えば買えなくはなさそうだ。ローンの審査が通ればの話だが。金利はキャンペーン中で2.9%とのこと。服部KAWASAKIなら、自分一人でもまた行けそうな気がした。
その後、レッドバロン、旧車/絶版バイク専門店 ウエマツ 東北、ビッグバイクショップへと足を延ばした。
レッドバロンでは、まさかのSR400モスグリーンが、数多くの中古車の中にひっそりとたたずんでいた。
近寄ってみたら、静かに輝いていた。ああ、やはり素敵だ。一番の憧れはSRなのだ。色もまさにこの色なのだ。価格は70万円弱と記憶する。
少し離れた場所には見慣れた馴染みのあるバイクが2台並んでいた。YAMAHAのセローだ。でも何かがちょっと違う。そうか、225ccなのだ。
人気車のセローは250ccで、もう少しスレンダーというか、鋭敏な感じを醸し出している。そこに並んでいたのはオレンジのセローとブラックのセローだった。
特に今年のラッキーカラーオレンジが気になった。じろじろ眺めていると、ショップの兄ちゃんがやってきて、語り出した。
家族で乗られていたお客さんのお母さんが乗られてて、他の車種に乗り換えたのだとか。ワンオーナーかと聞いたら、言いにくそうにそうではなさそうなことを言っていた。
兄ちゃんはキーを持ってきて、エンジンをかけてくれた。アクセルを回してしばらく音を聞かせてくれた。なかなか渋い低音の響きだった。
オレンジのセローが私に語りかけていたとすれば、ね、やっぱりあたしでしょ、セローいいでしょ?年取ってるけど、お互いさまだし、気が合いそうじゃない?そんな感じだろうか。
金利は9.8%という文字を同行の自称ライダーが見つけた。名残惜しさを感じながら店を出た。
途中、海へ向かい、閖上(ゆりあげ)メイプル館のROAST STAGEでコーヒーを御馳走になった。以前一人旅で訪れたときに、あまりの美味しさに感動したコーヒー店だ。閉店後だったため、テイクアウトで土手のベンチで飲んだ。
会話はあまり盛り上がらず、相手の好みと私の好みはバイクの趣味だけではなくその他もかみ合わないような感じがしていた。
ちっこいオープンカーの持ち主のオートバイはCB400だと言っていた。遠慮がちに私に勧めるバイクもカウル付きのマシーンという感じのオートバイだった。
オートバイの趣味が明らかに違っていた。私の気になるバイクにはほとんど興味を示さなかった。コーヒー好きとプロフィールにあったが、豆にこだわりがあるわけでもなかった。
だんだんに、もういいかなという気持ちになってきた。蔵王を背景にした長閑で美しい農道を車は走っっていく。どこへ向かうのか。もう見たいバイクは見た。
着いた場所は、旧車/絶版バイク専門店 ウエマツ 東北。元レストランの古風な建物をそのまま利用していた。自分が行きたいと伝えておいた店だ。忘れていた。
これぞオートバイというオートバイがそれぞれの強烈な主張を放ってピカピカと輝いていた。店内の出入り口付近では、黒に赤?オレンジが印象的な一台に、これぞ男という雰囲気のガタイのいい男性が跨っていた。購入する客のようだ。
大きな個性的な車体がたくさん並ぶ店内で圧倒されながら見て楽しみ、胸いっぱいで店を出た。駐車場に一台のKAWASAKIが止まっていた。
写真を撮ろうとしていたら、乗り手がやってきて微笑していた。背の高い、やはりガタイのいい男性だった。写真を撮っていいですかと断って、バイクの写真を撮らせてもらった。
昭和の雰囲気を残して、KAWASAKIは走り去った。カッコいい、声に出して私は見送った。何という美しいバランスなのだろう。
最後にビッグバイクショップの中古コーナーへ行った。行く途中のバイパス沿いにラブホがあり、運転手はそのホテルの最上階がいかに素晴らしい部屋であるかを語り出した。
興味のない返事をしてから、とっさに尋ねた。もしかして、パートナーズってそういう相手を募集するサイトなんですか?私のプロフ写真はエロいのかしら・・・
急に嫌気がさしてきた。もう、最寄りの駅で降りてもいい気分だった。夕食に誘われることもなく、いつ路地に曲がって連れ込まれるかという不安がよぎった。
離婚してまだ半年だと言う。気が付くとミントを噛んでいた。微かにイラつきも感じた。誰か助けてくれという心の声が聞こえそうだった。異常に痩せていて、憔悴しきっている様子に見えた。
日が傾く前に、駅のあるショッピングモールの近くで車を降りた。
感動とがっかり感と失望と希望の入り混じる一日だった。
そんなこんなをTwitterに吐き出そうとログインすると、DMが入っていた。まさかの申し出が綴られていた。アッチョンブリケだ、ピノコになりそうだ。
バイクを買う資金を貸してくれるという奇跡的な、夢に見たような話だった。このブログを楽しみにしていること、困った年寄りを助けたい思いであることが理由だと語っていた。
頭の中では惚れたバイクに乗るべきだと、見えない存在が語り掛けていた。だから、タダでいただけるバイクの話は丁重にお断りした。
資金についていは、もう少し考えて返事を送ろうと思っている。
この奇跡の日々はどういうことなのだろう。たかが占いを信じて行動を起こそうと努力している結果なのか。本当に運の流れというものがあるのか。
出会い系サイトをチェックして、今日のお相手にメッセージを送ろうと思った。すでに相手からのメッセージが入っていた。
良かったらまた会いましょう。嫌なら断ってくれていいと。今日のお礼と共に丁重にお断り申し上げた。目的が異なるようです、再会はしない方が良いと思います、と。
返信があった。シートベルトして、と言うときにキスすればよかったですね。と信じられないことが綴ってあった。意味不明だ。
何度も近寄ってシートベルトしてと言われたことを思い出した。気分が悪くなった。
惚れたバイクへの思いが穢される思いがした。こんな日もある、こんな出会いもある、そこから学ぶものはきっと大きいだろう。そう思うしかない。
そもそも、バイク屋巡りのために相手を利用したのは私だ。さほど、いや、まったく魅力を感じていなかった相手と会うことにしたのも、バイクを見に行きたい一心からだったのだ。
打算的なのは私の方だったのかもしれない。
つづくよ
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