彼らの旅 私の旅 オートバイ乗りの独白その2(創作です)

 

(写真はイメージです。北海道ではありません)

🏍 国道229号線を余市へ向かう某オートバイ乗りの独白🏍

 

道は険しい箇所もあったが

積丹のうに丼は最高だったな

ほんとに美味かった

俺は幸せ者だ

 

次は余市で工場見学後にウヰスキーを買う

今夜の宿で楽しみに飲ませてもらおうか

 

あの頃の俺はこんな旅をすることなど考えられなかった

昼夜問わず働いて

可愛い盛りの子どもたちの顔すらまともに見ることもなく

たまに帰った翌日の早朝

妻は何も言わずに無表情で俺を送り出した

 

俺は愛想をつかされたと思い込んでいた

いつ離婚届を突き出されるかと内心恐れいていた

 

俺は家族のために頑張っていたはずだ

いや、純粋に仕事への情熱だったのか?

 

仕事に燃える自分が俺は好きだった

職場の仲間と飲む酒が美味かった

仕事仲間と過ごす時間が心地よかった

そんな時は家族のことなど忘れていたはずだ

 

しかし、最近知ったのだ

灰色の日本海を雨にずぶ濡れになりながら突っ走っていて

俺にしがみつく妻の両腕の力で俺はふいに悟った

 

こいつは俺を信じて待っていたのか

俺が帰るかどうかわからない日も飯を作り風呂を沸かし

シャツにアイロンをかけ部屋を清潔に整え

シーツをぴんと張ったベッドに太陽の匂いのするパジャマを置いていた

 

何も言わず飯も食わすにベッドで寝てすぐにまた家を出ていく俺を

妻は文句も言わずに見送った

早朝起きて作った弁当を俺に持たせて

 

何だこれは

目が霞む

泣いてるのか?

俺としたことが

俺も年を取ったってことか

 

子どもたちが可愛くないわけがない

俺は子供部屋のドアの前で寝息に聞き耳を立てるようにして小声でつぶやいた

父さん仕事行ってくるよ

 

顔が見たかったが子どもたちを起こしたくなかった

どんな目で俺を見るのか怖かったのだ

 

もうすぐ余市だな

今夜は美味い酒が飲めそうだ

 

明日は予定変更してすすきのへ行っちまうか

何だかセンチメンタルな気分だな

パーッとやろうぜパーッと

 

俺は自由だ

あいつも自由だ

俺もあいつもあの頃とは違うんだ

子どもたちは今でも可愛くて仕方がないが

 

 

つづく

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