雨上がりの旭川の夜は、ハマさんとソーダ水の君と、塩ホルモンの美味しい店へ行った。明日は早起きだというのに、3人ともホルモンの美味しさについつい生ビールやハイボールがすすんだ。
やさぐれた感じの無精髭のハマさんは、酔いが進むにつれ本音をもらし始めた。
「僕ね、離婚しました」
「え?いつのまに、なぜ?」
「それがね、よくわかんないんです。僕には。妻は趣味の集まりで出会った男と新しい人生を始めるのだと手紙に書いてよこしました」
「ええ、なんですか、それ」
ソーダ水の君はホルモンを口いっぱいにほおばりながら、眉をへの字にしてそう言った。
「もうね、淋しさと情けなさと、疑問だらけで日々を送ってきました。そんな毎日のたった一つの希望が今日だったんですよ」
「今日って、今日のこと?」
「ええ、かつての愛車にも会えるし、美女2人が僕を訪ねて来てくれるのかと思うと、そりゃあ楽しみで。心の支えでしたよ」
「あれ、ハマさん泣いてる?」
「ソーダ水ちゃん、突っ込まない」
「普通の男はね、愛する人と出会ってから、たぶん死ぬまで、その人と子供たちのためだけに生きてるんですよ」
「ふむふむ(モグモグ)」
「表面では何もしていないように見えてもね。心の中にある一番大きな大切な存在は自分の家族なんです」
「ふむふむ(ゴクゴク)」
「自分の命は彼らのためにあるとすら、無意識に思っているんですよ」
「うっぷ(ゴックン)」
「そうなんですか?そんなに深い愛情があるんですね」
「女性の場合はそうではないんですか?」
「うっぷ(ゴホゴホ)」
「うっぷ(ヒック)」
その夜、ハマさんは生ビールを大ジョッキで5杯飲み、酔って意識を無くした。仕方がないので、ソーダ水の君と私の2人でハマさんの家まで送り届けた。
家の鍵を開け、寝室へひきずって行き、物の乱雑した部屋の片隅に敷きっぱなしの布団に何とか横たわらせた。
鍵を借りたまま外から施錠して、私たちはホテルへ向かった。
「明日早いのよね・・・ソーダちゃんは何時の予定?」
「えっと、予定では6時出発なんです」
「私はできれば日の出前に出たいの」
「っていうと・・・」
「4時前くらいね」
「ええ、そんなに早く?」
「そう、早く出発して午後は早めに宿に着く方針」
「あ、それいいですねぇ。メモメモ」
「そうそう、一旦お別れの挨拶のメモと鍵をハマさんちのポストに入れて行きましょう」
「ええ。ハマさんも明日からツーリングに出るって言ってましたけど。別行動でオッケーですよね」
「もちろん。ソーダちゃんが一緒に走りたければ、ハマさんのお目覚めを待っててもいいけどね」
「嫌です~。ハマさんいい人だけど、今はムリかも・・・」
「そうね、ちょっとくどそう。スカッとした北海道で聞きたい話題じゃないわね」
「じゃあ、ソッコウ寝ましょう。おやすみ!」
それぞれの部屋に入り、シャワーも浴びずに寝た。
翌朝急いでシャワーを浴びて身支度を整え、ホテルの駐車場へ向かうと、外の路肩に一台のオートバイがアイドリングのまま止まっていた。
HONDAのAfrica Twin Adventure Sports
「まさか、ハ、ハマさん?」
「え?カモシカさん、ハマさんて?」
ソーダ水の君もヘルメットと荷物を持ってやってきた。
「あのバイク、ハマさんだと思うの」
「え?こわい・・・」
つづく
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