「ああ、なんか、引き継ぎ無しってきついわね」
「ええ、そうね。一日でも会って細かいこと教えてほしかったわよね」
「それに、カモシカさんやマスターに会ってみたかったし」
バーのドアの鍵ををやっとのことで探し当て、ドアを開けて店に入ったゆっくりさんとあんこさんは、ちょっと困っていた。
「まあ、慌てても仕方がないから、まずはコーヒーでも淹れましょうか?」
「ゆっくりさんは、どちらかというとビール!じゃないのかしら?」
「そうね、それもいいわね。バイクは宿になる家に置いてきたし。いただいちゃいますか」
「あ、待って!何かおつまみ作るから」
「なんか、お店開けないでずっと飲んでいたい気分ね」
「さすがにそれはまずいかも・・・何でも自由に飲んでいいって言われてるけど」
「冷蔵庫の中身は・・・あれれ、赤ウィンナーばかり?あとはビール」
「タコウィンナーのモトね!ほんと、なぜ人はタコウィンナーが好きなのかしら」
「じゃあ、タコウィンナー炒めでいいかしら?」
「ぜんぜんオッケーよ!でもお腹空いたわね」
「近くに牛タンのお店があるらしいの。そこでテイクアウトしてこようかしら」
「あ、いいわね。まずは腹ごしらえ。大事だわ」
突然勢いよくドアが開いた。
「おー、遠方からようこそ杜の都へ!」
「あ、あなたが浜のドラネコさん?」
「そうです。私が浜のドラネコです。こう見えて優しい男ですからモーマンタイですよ」
「ドラネコさんがいれば何がバーに入ってきても大丈夫ね」
「それはさすがに言いすぎかと・・・」
「私たちお腹が空いてるから、牛タン定食をテイクアウトしようと思ってるの。ドラネコさんもどうかしら?」
「ああ、じゃあ、私がおごりますよ。いま買いに行ってきます私が」
あんこさんとゆっくりさんは、バーのマスター一行の苫小牧行きフェリー乗船と同日に、名古屋からのいしかりに乗船して、翌日に新港埠頭に上陸した。
彼女たち2人は四国のそれぞれの都市からソロで名古屋のフェリー埠頭へ向かい、そこで落ち合った。初対面だが、意気投合するのに時間はかからなかった。
台風が接近していたが、彼女たちを乗せたいしかりは無事名古屋港を出港した。
彼女たちは会話もそこそこに、乗船後すぐに2人で浴室に向かった。初対面で既に裸の付き合いだ。
初日はゆっくり宿になる戸建ての家で休むように言われていたが、2人の意見が一致して到着した日の夜にバーを訪れた。
「これが牛タンなのね!」
「ええ、たいしたもんじゃないっすけど、美味いっすよ」
「わあ、楽しみ~。お肉大好きなの私」
「テールスープもセットなんすよ。ご飯は麦飯って決まってて、青唐辛子の味噌漬けと浅漬けとかがセットになってます」
「うわあ、美味しい~」
「ほんと、普通の焼肉と違うのね。柔らかくて味が沁みてて美味しい」
「良かったっす」
「あ、乾杯するんだったわ」
「俺、車なんで麦茶いただきます」
「カンパーイ!」
「なんか、すごい楽しい気分よなあ」
「今日は店開けないで、ゆっくりしてくださいってマスターからの伝言です」
「そうね、もうこんな時間だし。何も準備してないし」
「バイクはハマさんちですか?だったら、あと送りますよ車で」
「ありがとう。助かります」
「うーん、なんかすごい楽しい気分」
明日は、それぞれソロで近場をツーリングする予定だ。2日後にはあんこさんは青森へ向かう。母方の実家が青森にあるのだ。
つづく
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