なんで・・・なんであたしなのよ。
ハマさんのAfrica Twinが、付かず離れず着いてくるのがバックミラーに映っていた。
「じゃあ、ここからは別行動で行きましょう。3日後のキャンプ場で会えるのを楽しみに!」
そう言ってソーダ水の君とハマさんと別れ、それぞれの方向へ走り出したはずだった。
え?たまたまよね・・・そのうちどこかで道を逸れるわよね・・・やだ~
私は昨日来た道を逆行して、第一目的地の「神居古潭」へ向かった。
オートバイを降りて木の橋を渡り、ゆったりと流れる川の流れと奇岩を見た。早朝でだれもいない。清々しい空気を吸いながら歩いた。後ろを振り返ってもだれも来ない。ハマさんは通り過ぎて行ったらしい。
小石が長い時間をかけてくぼみを掘り下げたという、旭川市指定文化財「おう穴」も見た。神居古潭は交通の難所であったため、アイヌが神々に交通の安全を祈った場所なのだそうだ。私も心の中で、今回の旅の安全を祈った。
神居古潭からさらに昨日走った道を戻り、国道275号線へ抜ける予定だった。次に目指すは「道の駅 森と湖の里ほろかない」にある「三頭山の湯 源泉 せいわ温泉ルオント」だ。
急ぐ旅でもない。行く先々で大好きな温泉へ入るのも今回の旅の目的のひとつだ。「三頭山の湯 源泉」の泉質はナトリウム-塩化物泉。温まりの湯だが、この際気にしない。
北海道は思った以上に涼しく、オートバイで走っていると寒いと感じる場合もあるらしいから、これからさらに北上するにあたって体を温めておいても損はないだろう。
しかし、早朝出発したため、道の駅も温泉も開館時間までまだ時間がたっぷりある。地図を見てほど近い場所にある「北竜町ひまわりの里」へ行ってみようかと思ったが、花の時期は7月と書いてある。
蕎麦の花もひまわりも、1ヶ月ほど早いのだ。北海道の旅は夏の短い期間に集中するのもわかる気がしてきた。しかし、その分、旅人が少なめなのか、すれ違うライダーは今のところいない。
海岸沿いの国道230号線に出てしまおうかと思ったが、温泉に着く時間が何時になるか読めない。再び地図を見ていると「萌の丘」という文字が目に留まった。そこ、そこ行ってみよう。直感で決定だ。そこでしばらくぼんやりしよう。
特に何があるというわけではなかったが、田園風景を見下ろせる開放感あふれる場所だった。1時間ほど特に何もせずに過ごした。無いよりマシなトイレもあった。
空が大きい。大地は広い。沼田平野を見渡しながら、すべてがちょっぴり早いのか、そんな気配がした。花の季節、実りの季節、それらのちょっぴり前なのだろう。
お腹もすいてきた。オートバイに戻り、国道275号線を北上する。間もなく「道の駅 森と湖の里ほろかない」に着いた。まずは、軽く何か食べよう。
物産館で極上そばだんごを買って食べた。お茶はペットボトルのそば茶を買ってみた。ご当地のソフトクリームやアイスクリームに心が惹かれたが、温泉の後に食べようと決めた。
幌加内は蕎麦の名産地なのだそうだ。しかも生産量日本一だそうだ。ここに来るまで知らなかった。今日の昼食は蕎麦に決定だ。
蕎麦メニューは道の駅のレストランにもたくさんあるようだが、地図を見てこだわりの店を探してみたかった。時間的にもちょうど良い場所にある「手打ちそば処霧立亭」へ行くことに決めた。
温泉に長湯しない程度に浸かり、物産館で迷ったあげくバニラと熊笹のソフトクリームを買った。初めて食べるものの美味しさと感動は、たまらないものがある。
ソフトクリームでは冷えきらなかった火照った身体で、目当ての蕎麦屋へ向かう。道の両脇に蕎麦畑が広がっていた。花が満開になったらさぞ美しいだろう。帰ったら山形へツーリングに行くしかないな。
店は国道275号線と国道239号線が交わる道沿いにあり、わかりやすい。100%幌加内産の玄そばを使用した手打ちの二・八蕎麦だと書いてある。
表には数台のオートバイが止まっていた。え?嫌な予感・・・あれは、Africa Twinでは?
店に入ると、店内の客の視線が一瞬こちらへ集中した。その中に、見覚えのある顔が、やはりあった。
「おお、やっと来ましたね。来ると思ってましたよ、カモシカさん」
手招きするハマさんのテーブルへ行かざるを得なかった。
素直にお店お勧めと書いてある、そばかま天付きザルそばを注文。シンプルなメニューが多く、蕎麦はとても美味しかった。
蕎麦はもちろん、ハマさんのおごりだった。いいこともあるものだ。ハマさんはそのまま275号線を北へ向かうと言っていた。
私は国道239号線をオロロンライン方面へ向かう。その後海岸線をひたすら北上し、飽きるほど海を見て走った。天候が悪く海が荒れていたら、怖いかもしれない。
その日の宿は温泉民宿北乃宿。日本最北の温泉だそうだ。トロリとした温めの湯と食べきれないご馳走が特徴とのこと。泉質は、含ホウ酸重曹食塩泉。
その日、空はぼんやりとしていて夕焼けを見る事はできなかった。翌朝、宿から利尻富士が綺麗に見えた。たぶん、まだ誰もいないであろう白い道へ向かう。ホタテ貝が敷き詰められた、憧れの道だ。
つづく
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