彼らの旅 私の旅 北海道ツーリング 旅の終わり(創作です)

(Webからお借りしました)

時間が足りないお金が足りない体力が足りない気力が足りないやーやーやーやー♩

 

わけのわからない歌を自作して歌いながら私は苫小牧港へ急いで向かっていた。北海道は思った以上に広かった。走れば走るほど、行ってみたい場所、走ってみたい道が増えていくのだった。

 

白い道は素晴らしかった。白い道と、道の両サイドの緑と、青い空と白い雲と、青い海しか無かった。行ったことも見たこともないが、まるであの世へ続く道のようだった。

 

多くのライダーが何往復かするらしいが、例に漏れず私も数往復した。頭の中にはショパンのプレリュード第24番Op.28がずっと流れていた。

 

あたりは物音すらしない、いやホタテの貝殻がシャリシャリと踏まれて鳴っているはずだが、印象としてはオートバイの音と風の音以外、無音だ。

 

そんな場所に一人きり、道を走っているのか浮かんで飛んでいるのかわからなくなってきた。プレリュードはいつしかお経に変わった。般若心経の知っている部分だけが何度も何度も頭の中で繰り返される。

 

しきふーいーくーくーふーいーしきしきそくぜーくーくーそくぜーしき

ぎゃーていぎゃーていはーらーぎゃーてーはらそうぎゃーてーぼうでぃそわかー

 

一瞬気が遠くなったかと思った瞬間、微かにエンジンの音が聞こえ、南から一台のオートバイがやってくるのが見えた。一つ目のライト、ほっそりとした車体。乗っているのは男性のようだ。

 

すれ違いざま、今どきのヤエイではなく、私が現役バイク乗りだったころのピースサインを出して微笑んでいたように見えた。ジェットヘルメットのシールドはスモーク加工がされていて顔がはっきりは見えなかったが、たしかに微笑んでいた。

 

彼のおかげで私の意識は現実世界に戻ることができた。もう次の場所へ向かおう。次の場所・・・決めていない。

 

あても無く海岸線を東南へ走る。途中で地図を確認したら、猿払村道エサヌカ線という道だった。素晴らしい道だった。どこまでもどこまでもまっすぐな道だった。疲れを感じ、早々に道沿いの宿に飛び込んだ。運よく部屋は開いていた。

 

そこで翌日の昼まで寝た。仕方なく連泊することにして、午後も寝た。それ以降のルートは記憶に残っていない。途中で出会ったライダーが富良野をやたらに推すので、富良野へ行って一日中花畑でウロウロしていたことだけは覚えている。ランチはカレーだったか。

 

そして私は一週間の旅を終え、フェリー埠頭へ向かっている。来るときはbar_nのマスターと、バーのお客のソーダ水の君とミリオンダラー・ベイベーさんが一緒だった。

 

帰りは一人きりか、あるいは誰か一緒の人がいるか。港へ行ってみないことにはわからない。

 

ところで、ミリオンダラー・ベイベーさんはキャンプ地に来なかった。マスターに連絡が入り、礼文島へ渡ったとのこと。連絡の船が連日欠航でキャンプ地の集結に間に合わなかったらしい。

 

元気で旅を続けているだろうか。海への思いは克服できただろうか。旅を楽しんでいるだろうか。ベイベーさんのことは、なぜか気になるのだった。

 

つづく

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