
いきるーこーとがーつらーいとかーくるーしいーだとーかいうまえーにー♪
のにーそーだつーはなーならーばーちかーらのかぎーりーいきーてーやれー♪
肉を焼きながら缶ビールを飲み、いつの間にか酔って歌い始めたマスターに合わせて、火を囲むライダーたちが一斉に歌い始めた。
まるでユースホステルの夜、林間学校のキャンプファイヤーのようだ。
「あーやだ。こういうの苦手~。次には自己紹介とか始まっちゃうのよね」
「そうなんですか?楽しいじゃないですかぁ。知らない歌ですけど。。。」
「ソーダちゃん、千春知らないの?」
「ちはる?誰です?」
「この場にいるほとんどの人はコッキーポップとかポプコンを生で知ってる世代だから、千春の次にはソーダちゃんの知らないフォークソングとかが次々に出てくるはずよ」
「ポッキーポップ?なんですか?それ。セコマで売ってます?美味しそう」
「売ってない売ってない、むかしの音楽番組よ。超有名歌手をたくさん生み出したポプコンのミュージシャンを取り上げていた歌番組なの」
「ふ~ん。何か難しい話ですね。で、ポプコンはセコマに売ってますか?」
「売ってない売ってない。中島みゆきは知ってるでしょ?彼女もポプコンでデビューしたのよ」
「そうなんですか」
「まあ、ギター持ってる人がいないのが幸いかしら」
「あ、さっき巨大コオロギのような渋いバイクに乗って遅れてきた人が、管理棟にギター借りに行くって言っていましたよ」
「ええー。苦手なのよ、そういうシチュエーション」
「まあ、いいじゃないですか。飲んで食べて酔っちゃいましょう!」
「あ、すいません、美人ライダーさんたち、肉とビール追加でお願いします!」
「え?あたし?なんで?」
「あの、カモシカさん、マスターがSNSで美人ライダーがおもてなししますっていっちゃったらしくて・・・」
「それって、誰のことよ?」
「美人と言えばカモシカさんと、あ、た、し、って感じでしょうか。。。」
「なんで、なんでよ。あたしもバーの留守番頑張ったのに。おもてなしされる側でしょうに」
「カモシカくん、ビールこっちから出してやって!肉は今焼けるから運んでやってくれる?」
マスターは煙にまみれて肉を焼いている。日に焼けて精悍さを増したような顔だった。
キャンプファイヤーの周りで炎に照らされた面々の顔をじっくり見渡すと、あら不思議、知らない顔のほうが多かった。
どうやら、それぞれが旅の途中で知り合ったライダーや、このキャンプ場にいたライダーたちを次々に誘ってきたらしい。
食材や酒がなぜか足りているのは、誘ったライダーたちが各々食材や酒を買い込んで提供してくれたからだ。
バイクバカはただのバカではないらしい。常識をわきまえた、気の利いたやつらばかりのようだった。バカなのは、バイクに乗り続けていること、その点だけなのだろう。
つづく
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