彼らの旅 私の旅 真夜中のオフローダー再び(創作です)

 

またいつものbarの扉を開ける。

 

「おいーっす」

「うーっす」

 

「なんか妙な乗りだな。機嫌悪いかご機嫌かどっちかだな、これは」

「うーん、どっちでもない」

 

「余市あるよ。土産のボトル開けた。かなり美味いよ!」

「うーん、今夜は桃の気分なんだよね。桃のフローズンダイキリとか」

 

「ああ、それね・・・あるよ」

「え?できるの?」

 

「もちろん。昨日、とあるbarに行って飲んできたばかりでさ、試しに真似して作ってみたら美味かった」

「なんというタイミングなの!ラッキー!」

 

「お通しはナッツ&干し葡萄。つまみは何かいる?」

「お腹空いてるから、桃に合うパスタとか」

 

「うーん、塩焼きそばどお?」

「そうね、それいい!」

 

「そういやさ、3日前に彼が来たよ」

「彼って?」

 

「真夜中のオフローダーくん」

「ほお、また突然」

「そう」

「んで、またとんぼ返り?」

 

「いや、一泊して翌日SUGOのオフロードコース走りに行くって言ってたぜ。だからビールとハイボール飲んでった。ハイボールは俺からのおごりね」

 

「ふーん、なんも聞いてない」

「カモシカくん誘ってみたら?って言ったんだけどさ」

 

「毎日仕事頑張ってて、久々の休みだとかで急に思い立って来たそうだ。なんか、女の人のことわかんないからとかも言ってたな」

 

「そういえば、お母さんを早くに亡くしてるからって言ってたわね」

「言ってたな。いろいろ苦労したみたいでさ」

 

「だけど、世の中の男って、親がいようがいまいが、子供の頃に愛されようがほっとかれようが、女のことちゃんとわかってる男ってめったにいない気がするのよね」

 

「ドキ・・・それまたなんで?」

「コロナ前に20年ぶりで元彼に会ったのよ」

「言ってたな、そういや」

 

「会えなくても一生好きでいる人だと思い込んでたけど、実際に再会して当時のこと話してて、え?それ全くわかってなかったの?ってことがあって、20年もの思いが一瞬で冷めちゃった」

 

「えー、どんなことさ?」

「それは深くて言えないけど・・・」

 

「思わず言っちゃったわよ、あたし。100人の女と付き合っても、本当の女の気持ちなんかわかんないんだろうね、って」

「ええー、かなりきついぜ、その言葉」

 

「でも、ほんとだもん。けっこうモテる人で付き合う相手多数だったから、がっかりしちゃった。女のことわかってなさすぎで」

「まあな、俺も奥さんのことわかってない面多いけど」

 

「まあ、それが普通なんだとは思うけどね。だから、オフローダーくんも気にすること無いんじゃないかなって」

 

「会って話せれば良かったな」

「そうね。でもお母さんにもお姉さんにも私はなれないから」

 

「そんなの求めてないだろ」

「あたし、中身中2だからねぇ」

 

「楽しく飲んで話してゲラゲラ笑えれば何よりなんだよ」

「あ、それ不足中」

 

「ドーパミンとオキシトシンが足りないと思う」

「何だ?そのオキトシチンとかいうのは」

 

「もふもふとかスキンシップとかで得られる幸福感?みたいな感じ?」

「ああ、なるほどね。たしかに」

 

「あれ、納得しないでくれる」

「いや、誰が聞いても納得するだろ」

 

「明日明後日は、久々の連休なのよ。三陸方面に走りに行こうかと思って。海を見渡すカフェでまーったりして来るつもり」

 

「そりゃいいな。俺も行こうかな。俺、カモシカくんのことなら何となくわかる気がするんだよな、自分の奥さんより」

 

「それって、同じバイク乗りだからじゃないの?」

「当たりー!さすがカモシカくん、カマかけてもひっかからない」

 

 

つづく

 

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