彼らの旅 私の旅 カモシカのいないbar(創作です)

「ねえ、マスター、カモシカさん今夜も来ませんね」

「そうだねぇ、ここのところ顔見せないね」

「もうすぐ北海道集結なのに、行けるのかしら」

「うん、行くじゃね?カモシカくんなら」

「こんばんは」

「あ、助っ人さん、お久しぶりです~」

「ソーダちゃん、マスター、ご無沙汰してました」

「カモシカさんなら、来ないと思いますよ」

「どうかしたんですか?」

「うーん、よくわからないんですけど・・・朝活にはまってるとか言ってました」

「朝活・・・ですか?朝駆け、かな?」

「そうそう、それです!いきなり早起きしてバイクで走って、渋滞時間が終わった頃に帰ってくるとか言ってました」

「それから昼寝して、自宅で少し仕事するって言ってたよな」

「実は先日、バイクで出勤する時、すれ違った気がするんですよ、カモシカさんのバイクと。それで、スイッチが入ったっていうか、北海道集結のことを思い出したっていうか」

「ほう、たしか助っ人さんは川崎町にお住まいでしたよね」

「そうなんです。仕事に行く途中の道沿いに、オアシスのようなコンビニがあってですね、タイトなワインディングを車に追われるように走って、山道を抜けた平坦地にぽっかりとあるコンビニなんですよ」

「あ、なんかそこ、わかるような気がするな、おれ」

「あ、私も知ってるかも。車と車の間からスッと抜けて、ホッと一息つけるコンビニよね?」

「そこの駐車場で、座り込んでパンか何か思いきり食ってる女の人がいたんですよ。横にバイクがとまってて」

「あー、それ、そうだわ。カモシカくんしかいないわ」

「一瞬その様子を見たら、なぜか今年は僕も北海道集結、参加したいなと思って、今日来てみたんですよ」

「それは嬉しいなぁ、ぜひ参加して下さい」

「今年は参加者がもしかしたら少ないかもしれないんです。ただ、そんな気がするだけなんですけどね。また、いつの間にかみんな来てたってことになるかもしれないけど」

「そうなんですか」

「まあ、3人くらいでもいいんですよ。ひとり旅の後先に、しみじみと語るでもなく黙るでもなく、なんとなく火を囲んで同じ時を過ごす。ちびりちびりと酒を飲んで、炎の向こうに見える満足そうな仲間の顔を見るともなく見る。それだけで最高の時間になるはずですから」

「いいなあ、そういうの。ぜひ参加させてください。それで、日程は?」

「本決まりになったら、メールしますよ。実はまだ何も決まってなくて、ハハハ」

「え?たしか、集結予定の日は10日後でしたよね?」

「そ、そうなんですけどね。何事もファジーがいいって、カモシカくんの考え方がうつっちゃって。まあ、なんとかなりますよ」

「そうですか。サラリーマンやってると、どうしてもスケジュールとかきっちり決めたくなっちゃうんですよね。そうしないと不安というか、落ち着かないというか。いやなサガですね」

「いえいえ、それが普通ですよ。カモシカくんが特殊なだけで」

「いま頃カモシカさん、くしゃみしてるかもしれないですね~」

「もう、寝てるかもしれないな。健全でよろしい」

つづく

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