妄想ショートショート「漢に二言はない」2

 やだ、カワサキ乗りったら、西道路行くつもりだわ。あたし、あの道は走らないって決めてるのよ。

車の量は多いし流れ早いし、逃げ道無いし、中途半端なトンネルがいくつも続いて、道幅も広くはない。光の具合はやたら変化するし、空気は悪そうだし、いつ事故る車がいるかわからないし、バイクが走る道じゃないと思うの。

だから、あたしは左折せず、交差点を直進して県道31号線をそのまま進んだ。カワサキ乗りは左折車線をすんなり曲がっていった。直進する私に気づいている様子も無い。

蛇行する広瀬川沿いをくねくねと走る県道31号線を快適に走り、大崎八幡宮の大鳥居を左手に見て、しばらく行くと東北大学病院前を通る。交差点を青信号で更に直進する。

このまま借りているバイクパーキングに戻っちゃおうか。

え?あれは・・・

レトロなカワサキが、交差点の向こうの路肩にとまっていた。

西道路を抜けて左折するとちょうどこのあたりに着く。まるっとお見通しだったってこと?

スピードを落として進むと、絶妙なタイミングで私の前にカワサキが入り込んだ。ちらりとこちらを振りかえり、前に向けて指を突き出すと、スムーズにスピードを上げていく。

行きましょう!という合図だろう。

え~、本当に行くんだね。嫌じゃないけど、彼は誰?しかも、おとこまえ、実は苦手かも・・・緊張するのよね。

というわけで、2台のオートバイは、制限速度をかたくなに守りつつ45号線を進み、無事に塩釜水産物仲卸市場に着いた。

カワサキ乗りは、迷わず建物に入ってすぐ右手の店の暖簾をくぐる。

「寿司、無いっすねぇ~海鮮丼っすね~まあ、食えば一緒っすよね」

「うん、まあ、そうっすね」

「でも、なんで寿司なんですか?」

「え、シカさんが言ったんすよ、ツイッターで。寿司おごれって」

「あ、あれ?あれは・・・寿司だけにネタってことでオチがあったはずだけど」

「あ、おれ、それ見てないっす。シカさんのバイク見つけたら、寿司おごらないとダメなんだよなって、焦ってコンビニに戻ったんすよ~」

はあ?もしかして、おとこまえ君は、ちょっとあんぽんたん?心の中で私はつぶやいた。でも、そこがなんか、かわいく思えなくもない。

ハイおまたせしました!

宝箱のような美しい海鮮丼が、二人の前に運ばれてきた。

もうどうでもいい。2人は夢中で食べた。それぞれに違ったネタの乗った海鮮丼。とびきり美味かった。

「うまいっすね~」

「うん、うまい!」

「来て良かった。ありがとうね」

「いやいや、シカさんに会えて良かったっす」

えっと・・・支払いはどうなるんでしょう・・・心の中で呟いた私。

「食った、朝の海鮮丼もなかなかいいっすね!」

席から立ちあがり、カワサキ乗りはレジへ向かった。ホッとした私。

「ご馳走さまでした・・・いいんでしょうか?」

「もちろん、漢に二言は無いっす!」

おわり

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