彼らの旅 私の旅 遅れてきた二人(創作です)


「ねえ、マスター!カモシカさんどうしたのかしら?もうすぐ乗船受け付け開始なのに」

「そうだねえ。どうしたんだろうね。寝坊でもしたかな?」

「そんなはずないですよ、朝活に燃えるカモシカさんは、誰よりも早起きなんですから。それに今は夕方ですよ!」

「まあ、そのうち来るだろ。先に受け付けしちゃおうか、ソーダちゃん」

「そうですね・・・」

「あ、助っ人さんのバイクじゃないですか?あ、カモシカさんも!一緒に来たのかしら?」

「なんだろね。でもまだ受け付け終了30分前だから、なんとか間に合ったな」

「あー良かったあ。今年は上陸してその日に集結キャンプだから、ドキドキしちゃいましたよ~」

「まあ、準主役がいない集結キャンプなんて、気の抜けたコーラみたいなもんだからな」

「え、主役って誰でしたっけ?」

「え?いまさら聞く?俺に決まってる・・・と言いたいところだけど、そもそもは俺が沖縄ツーリングに行ってた時に店番してくれたライダーさんたちへのお礼のためだったわけさ」

「でな、カモシカくんは、留守番さんたちを補佐してほぼ毎晩店番してくれたわけ」

「あー、そうでしたね、そういえば」

「お疲れー」

「もう、カモシカさんたら遅いんだから~」

「え、受付終了までまだ30分あったはず」

「だって、出発します!って、メールくれたじゃないですか。もう5時間も前に」

「そうだけど、嘘じゃないよ」

「てっきり、早く来て近くのカフェで読書してるか、ターミナルで昼寝してるかと思ったんですよ」

「ちょっとね、助っ人さんと用事があって、そっち先に行ってたの」

「え、何ですか?助っ人さんと用事って」

「うーん、ちょっとね」

「よう、お2人さん、もう寝るぞ、オレ。助っ人さんなんてもう風呂行っちゃったし」

「え、もう寝るんですかぁ?」

「オレ、明日は早朝風呂入って日の出見るからさ」

「あ、それいい!あたしも寝よう」

「え、カモシカさん、バイキングと乾杯とかしないんですかぁ?」

「うん、ちょっと疲れたし、明日走るし、朝陽も見たいし、その前にお風呂って最高じゃない?」

「もう、いいです、あたし一人で食べて飲んできますから」

「それがいいな、おれ達、基本ソロだから」

「うん、私もそう思う。一人飯の女子ライダー、けっこうカッコいいと思う」

「もう、いいです。マスターもカモシカさんもおやすみなさい」

明日は北海道。そしてキャンプ場までひとっ走りして、夜は懐かしい皆とまた焚火を囲んで美味い酒が飲める。思い出じゃなく、翌日から走る道に思いを馳せて。

今夜は、母親のお腹の中のような船の揺れの中で心地よく眠れるだろう。

つづく

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