彼らの旅 私の旅 令和の釜事件の顛末(創作です)

「こんばんは、お久しぶり」

「おー、生きてたか~ずいぶん久しぶりだよな」

「なに言ってんのよ。メールはしてたじゃない」

「北海道以来じゃないか?実際に会うのって」

「まあね。キンケツってやつで来れなかったのよ」

「まあな、3日で帰るって言ってたのに、10日間もほっつき歩いてたら金も無くなるわな」

「だって、広いんだもん、北海道ってさ。3日で帰れるわけないじゃん。40kmぽっちでも7時間遊べる人間には絶対無理」

「で、ご注文は?」

「なんか安くて炭酸系のおいしいやつ。あとタコウィンナー乗せナポリタンお願いします」

「ところでね、最近釜事件があったのよ。もうビックリと言うか、がっくりというか、ほんと疲れて嫌な気分になった出来事。で、奮発してここに来たわけ。誰かに話さないと気分すっきりしなくて」

「何それ?釜事件て」

釜事件の顛末はこうだ。

いつの頃だったか忘れたが、SNSのタイムラインに、金しか無い男と事業をたたむことにしたと同時に失恋して大騒ぎしている女がいた。

はたから見ている(読んでいる)私には、どちらも孤独を嘆いているように思えた。そこで閃いたのだ。この二人が助け合ったらいんじゃね?

どちらも西の方の出身らしく、ノリも似ているように思えたし、お金の面でも助け助けられの関係が成り立つような気がした。

単純な思いつきで、2人にSNSで繋がってみたらどうかと提案してみた。

それから何か月経ったのかわからないが、ここ最近、SNSでまたやりとりが始まった。

金しか無い男とはジョークのセンスや、言葉のやりとりがしっくりこずお互いに遠ざかっていたのが、不意に戻ってきてブログを全部読んだとか言う。

見直したとも言っていた。単純に喜んだが、よく考えると、それまで見下されていたという意味でもある。

で、単純な私は再びかみ合わないながら、ジョーク交じりでSNSを楽しんでいた。

バイクでこちら方面を旅すると呟いていたので、土産をもってこいと冗談を飛ばした。ちょうど炊飯器がやばい感じになっていたので、釜もって来いと呟いた。

旅のまにまに、食べ物の話などでからかったり、軽いやりとりを楽しんだ。ふと見慣れた風景の写真がアッっプされたかと思ったら、ご飯奢れなどとの言葉を投げてよこす。

再び冗談で、土産の釜はどうした?とつぶやくと、本当に持って来たという。は?

おちょくった会話を楽しんでいたことのお詫びと、旅のオートバイに本当に釜を積んできてくれたことへの感謝として、言葉を綴った。

ごめんよ、と、ありがとうね。

そのあたりから、胸苦しさを覚える。なんで土産を貰わないといけないのか疑問。会いましょうともひと言も言っていないし、そもそも実際に会うほど仲良くしてもいない。

たいがいが、小ばかにされて対話が途切れるのが常だったから。

これはなにか理由があるのではと思っていたところに、SNSのタイムラインに以前わたしが縁を結んだ彼女とその男が、同時期に同地方に滞在するという呟きが流れてきた。

ああそうか、もしかして、と気がついて独り言を呟いてみた。あの方とあの方がいい仲になったお礼として釜を持ってきたのかな?と。

その直後、タイムラインに誰あてでもない一言が流れてきた。金しか無い男の言葉だった。

つべこべ言うやつはたいてい不幸\(^o^)/

そんなニュアンスの言葉だった。ふざけた絵文字付きで。

それを見てしまった私は、自分のことだと思い込んで気分が悪くなった。全部読んだと言われたブログには、不幸せな私の過去をたくさん書いていたから。

心の奥から飛び出してくる反撃の言葉をいいかげん呟いてから、私は彼ら二人のフォローを外した。一度だけ、上品な言葉に隠された私への反撃を、その彼女は呟いていて、それもまたタイムラインにちゃっかりと乗っかってわたしの目に触れた。

「たった一言ですべてが醜い話になってしまったわけよ。それが無ければ、皆ハッピーだったかもしれないのに。グッドタイミングで最悪の言葉を流してよこすエックスって悪意を感じるわ」

「ふーん。わからなくもないけどさ。バイクに釜積んできたってのは真心なんじゃねーの?」

「私もそう思って、自分が狭量なんだろうなって思ったけど。どうにもこうにも、心の中が気持ち悪くてたまらなかったのよね」

「まあな、誰が悪いってわけでもないというか。言葉ってのは怖いな。ましてや顔の見えない他人同士だと」

「そうなのよね。正解があるとしたら、やっぱり言葉ひとつで十分だと思う。だれもがハッピーになれる言葉」

「なんだよ、それ」

「出会うきっかけをくれてありがとう。今とても幸せです。みたいな言葉よ」

おわり

タイムリーで理由もわからない暴言をXで読んでしまった皆さんへ、遅ればせながらお詫びを申し上げます。

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