彼らの旅 私の旅 やっとわかった(創作です)

 

「こんばんはー」

「おお、やっときたかカモシカくん。なに、冬眠でもしてた?壮行会&新年会以来だよな」

 

「そうね・・・ちょっと浮気しちゃってて」

「お、やっとできたか、おとこが」

「いや、そうじゃなくて、ちょい飲みよ」

 

「なに、世間で噂のちょい飲み手帖ってやつ?」

「そうそう。1,100円ポッキリでお酒1杯か2杯とおつまみがセットになってるってやつ。もう楽しくて嬉しくて、ここに来るの忘れちゃってたの」

 

「なんだよ、冷たいなぁ」

「ごめんごめん。でも忘れてないでしょ。今ここにいるってことは」

 

「でね、答えが出たのよ」

「何の?」

 

「なぜ私が若い頃に走った道や場所を全く覚えていないのかの答えよ」

「記憶力の欠如、老化とか?」

 

「違う違う、まだそこまでいってない」

「じゃあ、何さ」

 

「あのね、あの頃の私は目的地とか走る目的を持っていなかったの、バイクで走るってことに」

「まあ、バイク乗りの目的はバイクで走ることだから、それでいいんじゃね?」

 

「でもみんな、なんちゃらラインを走りたいからとか、ソフトクリームを食べに行くとかランチしに行くとか、何号線をどっちに向かうとか、山とか海とかあらかじめ決めていくじゃない?」

「うーん、まあ、そうかな」

 

「あの頃の私は、北か南か東か西か、右か左か、それだけだったのよ」

「は?」

 

「だから、どこに行って何をしようかという考えは全く無くて、行き当たりばったりというか。だから、何号線をどこへ向かって走り、どこに到着して何をしたか、そういう記憶は全く残らないの」

「やっぱ、記憶力の欠如じゃね?」

 

「うーん、そうかなあ・・・じゃなくて、簡単に言うと、なぜ走ってたかって言うと、そこに道があるから、その一言に尽きるってことが今日仕事中にわかったの」

「なるほど」

 

「過去の写真を見ても、そこが何処で、どの道を走ってそこへ行ったかという記憶が全く無いのよ」

「うむ」

 

「地図も見ずに走ってたから、いま地図を見て記憶を取り戻そうとしてもやっぱりわからないの」

「なるほど」

 

「ってことで、答えが出て良かったじゃん。ご注文は?ちなみに、うちも単独でちょい飲みセット始めたんだけど、それにしてみる?」

「あ、それいい!内容は?」

 

「欅ソーダ割りと、あぶり笹かま、厚揚げと豚キムチのグラタン、鹿島台のデリシャストマト」

「わお、最高じゃん!で、お値段は?」

 

「1110円で、どおよ」

「わお、神だわ!」

 

「ところで、3月11日がもうすぐだな」

「ええ、とんずらさんとKくんのアメリカへの旅立ちの日でもあるわね」

 

「あの日、波にさらわれてカナダくんだりまで行った津波ハーレーと同じ日に、2人はアメリカに向かうんだ」

「それだけでも涙出そうな話よね」

 

「しかも、あの日津波にやられた仙台空港から旅を始めるそうだから、見送りに行こうぜ」

「そうね、仕事休んででも行くつもりだったけど、ちょうど休みなのよ」

 

「私たちの2度目の北海道ももうすぐだけど、旅費貯まってないのよね、あは」

「かんべんしろよ、飲み歩いてっからだろ」

 

「うん、バイトでもしないとやばいわね」

「たのむよ、みんな楽しみにしてんだから、カモシカくんのお酌」

「えー、今度こそは接待される側でお願いします」

「他に誰がいんのさ」

 

「欅うまー、笹かまうまー」

 

 

おわり

 

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