彼らの旅 私の旅 “Some people feel the rain, others just get wet.”(創作です)

 

 “Some people feel the rain, others just get wet.”

「雨を感じられる人間もいるし、ただ濡れるだけの奴らもいる」

Bob Marley 1945年2月6日生

 

barのBGMはボブ・マーリーだ。外は小雪が舞っている。誰だ、今年の冬は雪の少ない暖冬だと言ったのは。今日の気温は一桁台、十分に寒い。

 

土曜の午前中は好きなラジオを聞いて過ごす。夏は早朝に走ってきてからラジオを聞きながらコーヒーとパンの朝食だ。

 

冬はラジオを聞き終えてからほんの少し走りに行く。たいてい、近場の道の駅か産直市場へ行って食材を買って帰ってくるコースだ。

 

そして夕方からbarに行く。

 

「この曲、ボブ・マーリーよね?」

「そう。『Uprising』に収録されたRedemption Songってやつ」

「どういうこと歌ってるの?」

「待って、いまググってみっから」

 

〈精神的な隷属から自分を解き放とう

自分の精神を自由にできるのは 自分自身だけなのだから〉

 

「単純なようだけど、深いわね。ある意味バイク乗りっぽいというか」

「歌詞読むとすげーなってこと多いよ、音楽は」

 

「ちなみに、彼の名言も出てきたぞ」

〈雨を感じられる人間もいるし、ただ濡れるだけの奴らもいる〉

 

「あ、なんか涙出そう」

「なんでさ?」

「沖縄思い出した」

 

「あ、沖縄の雨な。俺も思い出した。すげー雨だったよな」

「前も後ろも上も下も見えない、上からも下からもザブザブ降ってくるような豪雨だったよな」

「うん、マスターのバイクのテールランプの赤い色だけが見えてた」

 

沈黙が続いた。お互いにそれぞれの思い出を思い起こしていた。

 

「もうすぐ、三陸ツーだな」

「そう、もうすぐ」

 

「さみーよな。約130kmくらいか、まっすぐ行って3時間ちょい」

「最短ルートならね。でも、海岸美術館とか海の見えるカフェとか寄るから、170kmくらいになっちゃうかな。私のことだから、寄り道、途中休憩、写真撮り、その他諸々で時間はいくらあっても足りない感じになると思う」

 

「天気いいといいな。ついでに気温高めとか」

「うん、お天気はまずまずな感じ。寒いのは仕方がないわね。その代わり空と海がスカーッとした感じなのがいい」

 

「俺も行っちゃうかなぁ」

「出た、オレもオレもサギ」

「いいよな、カモシカくんは休み自由で」

「そうでもないけど、普通の人よりは自由かな。その代わり、お金はぎりぎりだけどね」

 

「まあ、自由ってのはさ、お金じゃ買えないからな」

「うん。でも、ある程度のお金が無いと自由に行動はできないのよね」

「まあな。金と時間の自由のバランスってやつか」

 

「どっちもありすぎると妙なぐあいになっちゃうって言うかさ」

「そうなのよね。世の中見てると、お金があっても必ずしも幸福そうじゃなかったり、時間だけあっても日々をもてあましてたりして」

 

「夢と希望とちょっと貧乏、それがもしかしたら理想かなと思ったりもするのよね」

「ええ?ちょっと金持ちのほうがいいんじゃね?」

 

「ちょっと足りないとさ、頑張るじゃん。夢とか希望のために。そうすると細胞が活き活きすんのよ。たぶん(笑)」

「手に入れた時がお終いって感じ?」

「ま、まあ、そういう感じかな」

 

「で、何飲むよ?」

「ボブ・マーリーにちなんで、ラムかな」

 

「じゃあ、ジャマイカ・ラムベースのキングストンなんてどおよ」

「オッケー、それお願い!」

「つまみはドライソーセージとミックスナッツ&ドライフルーツって感じか」

 

外には雪が舞っている。帰りはとぼとぼ、仄明るい夜道を歩いて帰ろうか。

 

つづく

 

 

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