彼らの旅 私の旅 帰ってきたソーダ水(創作です)

「こ ん ば ん は・・・」

「おー、ソーダ水ちゃん、久しぶりー!足どおよ?」

 

「やっと松葉杖無しで歩けるようになったんです」

「そりゃあ良かった。バイクはどおよ?」

 

「ええ、ずいぶん前に簡単な修理を終えて戻ってきました」

「猛暑もそろそろ終わるだろうから、これからがツーリングの季節だよ。間に合って良かったな」

 

「ええ、でも・・・」

「なに?浮かない顔して」

 

「彼とお別れしたんです」

「彼って、北海道で出会ったバイク乗りくんか?」

 

「なんだよ、そのうち店に連れてくるだろうなって、待ってたんだぜ」

「たぶん、そのうち来ると思いますよ。1人で」

 

「なんでまた別れたのさ」

「事故ってから考えたんです。やっぱりバイクは1人で走るべきだなって」

 

「何でさ、楽しく2人で走ってたんだろ?」

「ええ、そうなんですけど・・・甘えが出ちゃうんですよね。彼について行けば安心ていうのか」

 

「ああ、わからなくもないな」

「バイクに乗ってるときは、それじゃダメなんですよ。自分の身は自分で守るっていうか、自分の周りの危険には自分で気付くしかないんです。誰も守ってはくれないんです。それはもちろん、彼のせいではなくて、自分の甘えのせいなんです」

 

「たしかにな。ひとりひとりが自分の身の安全を確保しないとバイクの場合はやばいことになるわな」

「それが痛いほどわかっちゃって。実際痛かったですけど・・・」

 

「何飲む?いつものやつでいい?」

「ええ、ビールといきたいところですが、やっぱりいつものソーダ水にアイス乗っけて下さい」

 

「でもさあ、別れることはないんじゃないの?嫌いになったわけじゃないんだろ?」

「ええ、そうなんですけどね。お互いにお休みの日はバイクに乗りたいし、デートする暇が無いんですよね。仕事帰りでもいいんですけど、やっぱりバイクの話になっちゃうし。平日は2人とも仕事で疲れてぐったりで、できれば直帰して休みたいのが本音だったりして」

 

「そうだな。なかなか難しいもんだな」

「でも、聞いて下さい!彼とは素敵な約束をしてるんですよ」

「おお、何だなんだ?」

 

ドアが開いた。

 

「こんばんはー!」

「おお、いらっしゃい、ちょうどいいとこに来ちゃったね」

 

「わお、ソーダ水ちゃん!お久しぶり~、もう足は平気なの?」

「ええ、おかげさまで、ここまで歩いて来れるようになりました」

 

「マスター、今夜もハイボールいただこうかな。厚岸の大暑で。だって、こんなに暑いんだもの」

「いま、重要な話の途中だったんだけど、カモシカくんも聞く?」

 

「え?何のこと?」

「ソーダ水ちゃんと彼の大事な約束の話だよ」

「わお、聞きたい!」

 

「えっとですね、彼とはお別れしたんですけど、2年後にまた会いましょうって約束したんです。もしお互いに一人で、大事な人ができていなかったらという条件付きで。2人が出会った北海道のRECAMP 摩周で、8月の2週目の週末に会いましょうって」

 

「あらぁ、素敵じゃない!そのまま結婚とか・・・それもいいんじゃない?」

「まだわかりませんよ。2年後のことなんて」

「そうだな、いろんな可能性があるわな」

 

「2年後ね・・・私なんて生きてるかどうか」

「なに言ってるんですか、カモシカさんたら」

「2年後か、その頃おいらはハーレーでアメリカ横断かな、ハハハハハ」

 

「また言ってる。マスターったら、超プラス思考」

「え?何です?それ」

「日本一周してたとんずらさんとKくんがね、2年後にアメリカ横断するんですって」

 

「わぉ、素敵じゃないですか!」

「それについて行きたいらしいわ」

「わたしも行きたいかも・・・」

 

「ええ、みんな行っちゃって、あたしは留守番?」

「カモシカさんも行きましょうよ~」

 

「うーむ・・・実現する気がしない」

「おいおい、何事も空想から妄想へ、妄想から計画へ、計画から実行あるのみだぜ」

 

「そうよ、カモシカさん。思ったことは実現しちゃうんじゃなかったでしたっけ」

「そんなこと、言ったことあったっけ・・・」

 

つづく

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