彼らの旅 私の旅 女子留守番隊の一日(創作です)

四国からやってきた女子ライダー2人の留守番初日が始まった。

 

まずは、バーの留守番の前に東北ツーリングだ。夕方には戻らないといけないので、近場へ走る。天気は上々。

 

「今日は、前もってカモシカさんから情報をもらっていた『さいちのおはぎ』を目指すわね」

「ええ、私も一緒に行くわ。なんとなくそんな気分なの」

 

2人は街の中心部を抜けて、286号線から二口街道へと抜けた。しばらく走ると秋保温泉の看板が出てきた。左折して秋保渓谷にまたがる小さな橋を渡る。

 

すぐに右折して細い道をしばらく行くと、車が出たり入ったりしている不自然に賑わっている一角があった。誘導員が車の出入りを整理している。

 

「え?さいち?ここが?」

 

2台のオートバイは誘導されて駐車スペースに入った。

 

あんこさんはヘルメットを取ると、駐車場を見まわしその広さに驚いた。それに比べて、店の小さいこと。しかもどこかの村にでもありそうな、地味な店構えだ。

 

なぜこんなに賑わっているのか不思議で仕方がない。ニコニコしながらゆっくりさんが後ろから着いてくる。

 

「ねえ、あんこさん、ここに何があるんだっけ?」

「おはぎ、よ。何やら地元ではとっても有名らしいの」

 

店に入っても、そこは田舎の普通の小さなスーパーだった。そして、ついに目にしたのは、大量に並ぶ各種おはぎのパッケージだった。通路の片側一面がずらりと「おはぎ」コーナーになっている。

 

あんこさんは急に興奮して、小豆餡とずんだ餡のおはぎ2個入りを買った。ゆっくりさんは、甘いものに興味がないと言っていたが、やはり密かに興奮してずんだ餡と納豆おはぎを手にしていた。

 

妙に満足感を覚えた2人はバッグにおはぎを仕舞うと、二口街道を更に奥へと走った。

 

ほっこらした感じの集落をいくつか結ぶ信号の無い長閑な街道をしばらく行くと、秋保大滝 滝つぼ駐車場の看板が出てきた。

 

あんこさんは、直感的に右折して矢印のほうへ曲がる。滝つぼへ行ける駐車場にオートバイを止め、2人は立ったままおはぎを頬張った。

 

「なんか、普通ね。でも、すごーく美味しい」

「うむ。そうね、何が特別って感じじゃないけど。たしかに、すごく美味しい」

「ずんだも想像と違って、甘くて美味しいわ」

 

2個入りの大きなおはぎを2種類ずつ、2人はぺろりと食べ終えると、滝つぼまで歩いた。マイナスイオンをたっぷり浴びてしっとり濡れ、2人ともニコニコしながら駐車場へ戻ってきた。

 

せっかくだからと秋保温泉の日帰り入浴を楽しみ、一休みすると、スピードを上げてもと来た道を引き返し、あっという間にバーに着いた。

 

この街の道路は片側6車線とか3車線左折とか、ちょっと難しいポイントが多いのだとカモシカさんが言っていた。

 

だから覚悟して地図を頭の中に叩き込んでいたおかげで、2人は街なかを思った以上にすんなりと走り抜けることができた。

 

バーは既にドアが開いていて、浜のドラネコさんが来ていた。

 

「お帰りなさい。どうでした?おはぎツーリングは」

「最高でしたよ!」

「もう、おなかいっぱいです」

 

「今夜のお通しは簡単にちくわキュウリにしますか。こう見えても石巻産の特別なちくわなんですよ」

「簡単で美味しいのが一番よ」

 

「あとは、野菜と魚介と肉類、ちょっとづつ買っておいたんで、おおいに腕を振るってください」

「あんこさん、お願いね。わたし、飲む人」

 

「あ、バイクはどうするのよ?」

「あ、そうだった。今日はバイクで来たのよね」

 

しばし沈黙の後、ゆっくりさんが言った。

 

「バイク置いてこようかしら・・・」

「そうね、今からなら1時間もかからずに戻ってこれるわね。私は今夜は飲まないから、おつまみの下ごしらえしておくわ」

 

「だったわね。明日は青森に出発なのよね、あんこさん」

「ええ、なんかちょっと緊張してきた。でも楽しみ」

 

2人は8日間の年休を取ってきたが、行き帰りに各々2日を要するため、実質的に自由になるのは4日間しかない。

 

あんこさんは宮城インターからひたすら北上し、一気に青森まで行く予定だ。だから、今夜の留守番は早々に切り上げる予定になっている。

 

ゆっくりさんは、行き当たりばったりでその日走りたい道を走る予定だ。もし遠出したければ、バーの店番は休んでいいとマスターに言われていた。

 

カウンターでコーヒーを飲んでいたハマさんの目に映る2人の女性は、楽しみで仕方がない、そんな笑顔だった。

 

つづく

 

 

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