彼らの旅 私の旅 ある夜の会話

「おう、来たか」

「ええ、来たわ」

 

「なんかいつもと違うな、何かあった?」

「うん、ふと考えたのよ。コンカツしようかと」

 

「え?なに?とんかつ食いたいって?」

「違うわよ、コンカツよ。こんにゃくのコンにとんかつのトン」

 

「え?だから、とんかつだろ?」

「そうじゃなくて、とんかつのトンにこんにゃくのコン!」

 

先に来てカウンターでソーダ水を飲んでいた彼女が、ケラケラ笑いながら言った。

 

「カモシカさん、違う違う、そうじゃないわ」

「マスターったら知っててからかうのよ。たちが悪いわ」

 

「まあ、そう言うなよ。で、なぜいま突然、そういうこと考えるわけ?」

「うん、なんとなく・・・」

 

「今は旅の計画考えないと。行けなくなっちゃうぞ」

「そうそう、SNSの呼びかけの結果はどうなの?」

 

「おお、留守番隊 北海道集結計画と銘打って、彼らにDMしてみたよ」

「それで?」

 

「うん、仕事の関係ではっきり行けないって答えが1名。他4名は曖昧な返事。予定がわからないってさ。1名はノリノリ」

 

「そうね、勤め人は長旅の計画は1年前、遅くとも半年前くらいまで決めておかないと休みが取れないみたいだから、難しいわね」

 

「フェリーは2か月前から予約だから、お休みとの兼ね合いが難しいかもね。私たちはけっこう自由がきくから大丈夫だと思うけど」

 

「理想はさ、行き当たりばったりの旅なんだ。何もかも自由で、だけど1ヶ所だけ1日だけ皆が集結するってのがいいと思うんだよな」

「それも素敵ね」

 

「こうしようかな、行きも帰りも自由、途中の旅も自由、何月何日に○○キャンプ場に集結って告知だけしておく。宿だと急には部屋を取れないからな」

「それ、いいかも」

 

ソーダ水の君が困った顔で言った。

「あ、私はまだ一人きりでは不安ですぅ」

「大丈夫よ、なんとかなるわ。それに、ハマさんには一緒に会いに行きましょう」

 

「でさ、なんでコンカツなわけ?」

「え、またその話に戻るわけ?」

 

「今までの人生でやったことのないことをやってみようかなと、そんな感じよ」

 

「バイク乗りの女性は永遠に独身であるのがカッコイイって誰か言ってなかったか?」

 

「片岡義男氏が何かに書いてたような気もするけど。永遠にとは言ってなかった気もするわ」

 

「僕たちバイク乗りから言わせると、そうあってほしいってのは確かにあるな。カッコいいって言うかさ、永遠の憧れかな」

 

「家に素敵な奥さんがいて、幸せな家庭がある人に限ってそんなこと言うのよ」

「なに?寂しくなったのか?」

 

「寂しくはないのよ。ただ、留守番さんたちがみんな素敵な方だったから、奥さんたちに嫉妬してるのよ」

「なんだ、それ」

 

「ホントの話を言うと、友達に勧められたの。職場で出会い系サイトが流行っていて、カップルが何組も生まれてるって」

「へえ、俺もやろうかな」

 

「なに言っちゃってるのよ、既婚者はだめよ」

「なんだ、つまんねーな。独身のほうが楽しいこと多いんじゃねーか?もしかして」

 

「たしかに。結婚してるから、もう誰も好きになっちゃいけないって、それも可愛そうな話かもしれないわね」

「だろ。わかってくれるか」

 

「ああ、自由で良かった」

「いっけん落着ですね!私も自由がいいです」

ソーダ水の君がさわやかな笑顔でそう言った。

 

 

つづく

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