彼らの旅 私の旅 一つの旅が終わる

「明日のフェリーに乗ることにしました」

「そうですか。それが賢明かもしれませんね」

 

「私も急遽すすきのさんとご一緒して明日帰ります。東北ツーリングは次回に持ち越しですな」

 

「そうですか。今週末には次の寒波がやって来るそうですから、また雪が降るでしょう。路面の雪がやっと無くなった今がチャンスかもしれません」

 

寂しくなる。そう感じた。ヒーローさんは、もう1日いてくれるそうだ。週末には家族の用事があって、どうしても帰らないといけないと言っている。

 

いい具合に味が沁みた〆さばの刺身と、レモンを添えた生牡蠣、蒸し牡蠣をつまみにしみじみと賄い酒を飲んでいる。ヒーローさんと私。

 

つわものさんとすすきのさんは、白飯だ。酒はもういいと言う。サラリーマンさんのリクエストで白飯を多めに炊いたので、鳴子のシソ巻きと煮物、刺身をおかずに食事をしている。

 

明日はパートを半日休んで彼らを見送りに行くことにした。ヒーローさんも一緒だ。ソウルレッドさんが、仕事帰りに私たちを乗せて仙台港まで連れて行ってくれることになった。

 

「カモシカさん、ぜひ私たちの街へいらして下さい。その時はオートバイで。素晴らしい場所へご案内しますから」

 

「はい・・・ぜひ」

「なんだか、自信のない声ですな」

「ええ・・・」

 

「悩みでもあるのですか?」

「じつは、怖くなっている、のかな。どうしてもオートバイに乗りたいという衝動が訪れないのです」

 

「なるほど。そういう時もあるでしょう。じっと待つことですよ。波乗りのように、いい波が来るのを待つのです」

 

「そうそう、いい波が来たら、逃さずにその波に乗ることです」

「きっといい波が来ると思いますよ」

 

年取った純烈の面々は優しい。ずっとこの空気の中にいたいと思った。

 

「なんか元気出たので、私もご飯食べます。ヒーローさんはいかがですか?」

「ええ、私も飯にしますか」

 

なぜか、カウンター席にはお客のサラリーマンさんもいた。すっかり意気投合してしまい、ホテルも留守番さん達と同じということで、居残っている。

 

「僕も仲間に入りたくなりました。バイク免許取ろうかな。皆さんの雰囲気がすごくいい。バイクに乗ったらそんなふうになれるんですかね」

 

「どうでしょう。たまたま、ここにいるのは似た者同士のような気がします。オートバイ乗りにもいろいろいますから。悪人も」

 

「ええ、いますよ、いろんな人が。ファッションで乗ってるやつもいるし。何かの道具としてバイクを利用しているやつもいる」

 

「そうなんですか。マスターは恵まれてますね。いい方たちと繋がっていて」

 

噂をしていたら携帯が鳴った。マスターからだ。明日、また1人留守番が店に行く。よろしく。それだけの文面だった。

 

「また明日、誰かが来るらしいです」

「ほほう、それは良かった」

 

「そうですね、トナカイさんを残していくのはとても不安ですから。何しろタコウィンナーしか作れないのですからね」

「ひどい・・・」

 

「どんな人でしょうね。これは楽しみだ。僕たちは会えないけれど」

「SNS繋がりの方だと思いますよ」

 

「誰だろうな」

「それにしても、マスターはなぜ久米島にこだわるのかね」

 

「わかりません。少なくとも私と過ごした島だからではないと思います」

「そうでしょうか」

 

「ええ、私と出会う前から、彼は久米島に行く計画を立てていたのです。そこに邪魔に入ったのが私だったのだと思います」

 

「詳しくは、マスターから直接聞くことにしますよ」

 

彼らとの最後の宴が終わろうとしている。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

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