彼女は決めた 始まりの終わり

 

北海道へ出発する前に、私は立ちごけし、思いのほか重傷を負った。腰の捻挫と足の打撲だ。

 

蔵王へ行った日の翌日も仕事が休みだった私は、SR400を借りて1人で走ってみたいのだとハマさんにお願いをした。一度だけの練習では足りないと思ったのだ。

 

道がわかりやすいほうが良いだろうと、昨日と同じルートを走ることにした。昨日は寄らなかったカフェへどうしても寄りたくて、1ヶ所だけルートを変えた。

 

温室をカフェにしたという、私にとって理想としていたカフェなのだ。そのカフェの狭い駐車場には砂利が敷き詰めてあった。

 

あ、砂利だ・・・そう思った時にはハンドルを切って駐車場に乗り入れていた。ハンドルを切ったままブレーキを操作してそのまま立ちごけをしてしまった。

 

ブレーキレバーが折れていた。足が挟まれて自由がきかず、無理やり足を引き抜いた。腰も強打した。

 

何よりショックだったのは、倒れたバイクを起こすことができなかったことだ。たまたま店から出てきた男性ライダーが呆れ顔で起こしてくれた。

 

「ツーリングですか?」

「いえ、練習なんです・・・」

「レバー折れてますね」

 

「ええ・・・」

「替えは持ってるんですか?」

「いいえ・・・」

 

見知らぬ男性ライダーの見守る中、私はハマさんに電話をかけた。事情を話すと、ツールボックスに予備のレバーを入れてあるとのことだった。

 

近くで話を聞いていた男性ライダーは、何も言わずにSR400の傍らにしゃがみこんで、手を動かしている。

 

「ありましたよ。工具も揃ってる。付け替えときますね」

「あ、はい、助かります」

 

手際よく作業を終え、40代くらいの男性ライダーはSR400に跨ってキックを踏んだ。エンジンがすんなりかかった。

 

「異常は無さそうですから、大丈夫そうですね」

「では、これで」

「ありがとうございます。もう、お帰りなんですか?」

 

「ええ、美味い珈琲を飲み終えて帰るところです」

「もしよろしかったら、いつかここへいらして下さい」

「わたしはカモシカと呼ばれています」

 

ふと思いついて、急いでウエストバッグからカードを一枚取り出して彼に渡した。bar-nの住所と連絡先がプリントされたカードだ。

 

男性ライダーはジャケットのポケットにカードをしまい、大型のバイクをスムーズに移動させて走り去って行った。

 

「タンクに傷ついちゃったな・・・私、もうこれ要りません」

「すみません。ほんとに、すみませんでした・・・」

「あはは、冗談ですよ!」

「え?」

 

「本当のことを言うと、無事北海道のわが家へ無傷で到着できるとは思ってなかったんです」

「はあ・・・」

 

「あなたのバイク履歴を聞いたときから覚悟していました。20数年ぶりでレンタルバイクを数度乗っただけ、とおっしゃってましたよね」

「ええ・・・」

 

「最初から、あなたにこのバイクを押し付ける気でいたんですよ。北海道へ一人で走って行くのもつまらないから、あなたを誘ったってわけです」

 

「は?」

「だから、これ、あなたに差し上げます。修理代はあなたが出して下さい」

 

「バイク、おいくらですか?」

「いえ、ただですよ。もし、抵抗があるなら無期限でお貸しします」

「そんな・・・いいんですか?」

 

「中古バイクショップに売ろうかどうか考えている時に、あのバーであなたたちの話を聞いたんです。こういう人に乗ってもらえたら、安く売って知らない人に乗られるよりいいかなと」

 

そんなわけで、私はすんなりと憧れのSR400の仮オーナーとなったのだ。

 

北海道ツーリングは中止になったが、乗りこなせるようになったらいつでも行ける。慣れない状態で、はらはらして走るよりずっと楽しめるに違いない。

 

転んでから3週間が過ぎた。腰と足の痛みがやっと落ち着いてきた、そろそろbar-nへ行ってみようか。マスターにこの度のことを報告しなければと思うのだった。

 

 

おわり つづけます

 

お久しぶりでございます。やはり走ったことのない、ほとんど行ったことのない北海道のことが書けませんでした。動画をいくつか見ても、具体的なイメージが浮かばず。想像力の欠如ですかね。実際に行くまで書けそうにありません💦なので、ストーリーを変えてしまいます。

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