ライダーに人は優しい 二口街道(2度目のレンタル SEROW 250)

突然だが、今日、約11か月ぶりにレンタルバイクに乗ってきた。4月18日月曜日に乗ろうと決めて、予約したのは3日前だ。レンタル予約可能ぎりぎりのレンタル当日の2日前だ。

西へ行くなら18日がいいと決めた。あとは天気待ちだ。4日前の天気予報では曇りとなっていた。3日前の天気予報では晴れのち曇りとなっていた。決行だ。一日考えて、予約期限ぎりぎりにYSPにレンタルの予約を入れた。

みごとに快晴の朝。10時にショップが開店するのに合わせて部屋を出た。例のごとく、自転車にヘルメット、グローブ、膝脛プロテクター、ライディングジャケット、シューズを積み込み、背中にはデイパック。

まるで夜逃げをするかのようないでたちで、自宅を出発。約5キロの道程。仙台中心部から電車で行くと、徒歩15分は歩くことになる。荷物のことを考えると自転車のほうがまだマシなのだ。途中、桜の咲き乱れる諏訪神社で今日の無事をお願いし、YSPへ向かった。

昨年乗ったSEROW 250と同じ車両だ。一度乗っているはずなのに、やはり押し歩き時には重く感じられ、何と、エンジンのかけ方を忘れていた。直前に説明を聞いたばかりでもあったのに・・・(写真は慈眼寺駐車場)

セルというものの存在が頭に入っていなかったのだ。キーを回してもエンジンがかからないと焦った。近くにいたショップスタッフを呼んで再度教えてもらった。セルを押せばいいだけのことだったのだ。大丈夫か私・・・

20数年ぶりに公道デビューした昨年のその日より、何かが何だかちょっとおかしい。体調は悪くない。天気も予想外に気持ちよく晴れている。夕べも早めに寝たはずだ。

身体は意識とは無関係に何かを記憶している。自転車でショップに向かいながら、ブレーキングやギアチェンジをちゃんとできるのだろうかと不安になった。考えれば考えるほど、できるような気がしなかった。

しかし、いざバイクにまたがって走り始めると、ほぼ無意識に右足は小さなブレーキペダルを、右手はブレーキレバーを操作し、左足はクラッチペダルを上げ下げし、左手はクラッチを切ったり繋いだりしているのだった。

エンジン始動は、現役時代はキックペダルだけでセルなどというものが無かったため、身体が記憶していなかったのだと思われる。坂道だろうが、信号待ちだろうがエンストすればその場でキックをしないといけなかったのだ。

というわけで、走り始めた。ショップからしばらく裏道を進んだが、道は混んでいた。286号線に合流すると、高速入口のバカでかい看板を見て不安になり、細い路地へ曲がったら、その先は階段の道だった。押し歩きして方向転換、286号線をまたいでローカルな二口街道へルートを変えた。

再び286号線に合流し、秋保方面へ向かう二口街道へ逸れる頃には交通量は落ち着き、のんびり走ることができた。山形方面へ向かう複数車線の286号線と二口林道へとつながるローカルな二口街道は、部分的に重なり合っているらしい。

秋保温泉に着き、秋保・里センターでジェラート&トイレ休憩。ジェラートは、何と450円もする。豆乳ミルクにした。バイクに戻り、身支度をしていると、傍に一人の男性が立ち止まったので、こんにちはと言ってみた。

お互いのバイクの話、昔の話、さいちのおはぎの話等々、挨拶程度の会話をしてそこで別れた・・・はずだった。

そこからほど近い、主婦の店 さいちに立ち寄った。名物のおはぎを買うためだ。数日前に、母が食べたいと言っていたのを覚えていたからだ。自分ももちろん食べたかったのだが。

駐車場も店も激混みだった。おはぎ2パックと共に昼食用の雲丹ごはんも買った。バイクの傍に戻り写真を撮っていると、知らないオヤジさんがやってきてこう言った。

「これは何㏄?」

あ、出た。何㏄おじさんだ。知っているナンシーおじさんとは別人の、普通のおじさんだ。きっと、何㏄おじさんはどこにでもいるのだろう。軽いショックを受けた。

店を出ると、路肩に見覚えのあるライダーが乗るトライアンフが止まっていた。私が走り出すタイミングに合わせて、先導するかのように発進した。

しばらく無言のお約束のように、つるんで走るかたちになった。遥か前方には残雪の山が、道沿いには想像もしていなかったみごとな桜の木々が、様々な表情を見せていた。何度かバイクを止めて写真を撮った。(つもりでしたが、あまり良い写真がありません)

そのたびに、はるか前方でトライアンフも路肩に止まった。神社の前で止まったとき、写真を撮っているので先に行ってほしいと伝えた。その後、2度ほどスレ違い、手を上げて挨拶した。それでお別れとなった。

正直に言うと、つるんで走った短い距離の間、自分はやはりソロ向きだと確認したのだった。こんなにみごとな風景をただ走り抜けるだけではもったいない。写真を撮ったり、立ち寄ったり、せめてバイクを止めてじっくり見たいのだ。

もちろん、人と走る安心感や、素晴らしい景色を供に走り抜けた共感のようなものも素敵だとは思う。だけど、立ち止まりたいのだ。その素晴らしい風景の片隅に。それを許さないのは男の罪🎶ではなくて、そのタイミングが合う相手はこの世にいるのかどうか定かではない。

二口街道はとても走りやすい穏やかな道だった。前後に車が見えない時は、ほぼ40キロ程度でゆっくり走りながら、残雪の山や雪解けの川や、桜の谷や、民家の見事な桜の古木などを見た。

慈眼寺(塩沼亮潤大阿闍梨の金峯山修験本宗の寺院)と秋保大滝不動尊に立ち寄って参拝もした。どちらも想像していたより素晴らしい場所だった。

秋保大滝不動尊では、土産屋のおばちゃんに話しかけられた。

「どちらから?これからはバイクにいい季節だねぇ」

とか何とか。

ライダーでなければ、そんなふうに話しかけられることはほとんど無い。おばちゃんとかオヤジさんとか言っているが、自分とさほど年の差は無いのだろうと思われる。

YSPのスタッフは、平日だけどいい天気だからバイクがたくさん出ているかもと言っていたが、いずれの駐車場も3台程度で、走っていてすれ違ったのは10台程度だったように記憶する。残念ながらヤエーというものはいただけなかった。

二口林道の入り口にあるビジターセンターから先は通行止めなのか?看板の意味が読み取れず、そこからUターンして駐車場で雲丹ごはんを食べた。熊出没の看板もちょっと怖かったので、先へ進まずに正解だ。

そのあたりから異変を感じた。バイクのエンジン音。走行には問題なし。問題なのは、左手の薬指の攣り。指が妙な位置で固まったりする。クラッチ操作に影響あり。

雲丹ごはんを食べている間に空は曇ってきた。風も吹いてきた。気温が下がってきたようだ。身体に疲れも感じ始めた。大きなおはぎ5個分の重さが加わったデイパックがやたらに重い。

ツーリングマップルを見て考えていた予定では、秋保温泉へ戻る途中から457号線へ逸れて釜房湖を経て秋保温泉へ戻るコースを走ろうと思っていた。雨粒が一つシールドに落ちてきた。

予定変更だ。疲れが出ている。無事帰るためにも早々に切り上げることにした。その前に、お決まりの温泉だ。身体も冷えていた。

8と7の付く日に割引料金になる温泉を思い出した。華乃湯だ。日帰り入浴受付時間を過ぎていたのに、ためらいなく受け付けてくれたお嬢さんに感謝したい。

ジーンズと靴下を脱いだら、左足の薬指も攣っていて、妙な方向を向いて固まっていた。華の湯には複数の浴場があるのだが、日帰り終了まで30分なので一ヶ所だけの入浴となった。川を見下ろす爽快な露天風呂を選んだ。

まるで「彼のオートバイ彼女の島」のコオの気分だった。ミーヨに気づく前の温泉シーンのコオだ。温泉は、もう、たまらなく気持ちがよかった。

地図を見ながら事前に考えていたルートで、YSPへ向かった。長町駅へ向かう複数車線の道では自分の走る位置に迷い、右往左往した。車の間に無理に入り込むかたちになったが、ヘルメットの後ろに貼った初心者マークが役に立ったらしい。クラクションは鳴らなかった。

ガスステーションでは、前回同様セルフだった。お金を先に入れ、ガソリンを入れ、今日はすんなりいった。かと思いきや、つり銭が出ねーじゃねーか。出口がねーじゃねーか。つり銭はこちら→の先には何も無い。しばらく途方に暮れる。

こちら→の先の先に行ってみた。隣の給油スペースの端につり銭と書いた機械があった。しかし、何の案内も書いていない。なんだよ、何なんだよこれはと怒りながら、レシートを適当に突っ込んでみたら機械が反応してつり銭が出てきた。

世の中、便利なのか不便なのか、よくわからない。少なくとも自分は世の中の流れに着いて行けていないのだろう。ガソリン、1.81ℓ、288円なり。

そして無事、レンタル時間2時間を残してYSPに帰着。いま、バイクブームですよ、と言っていただけあって、ショップは活気があって明るい雰囲気が満ちていた。

再び夜逃げバージョンの自転車で、途中、諏訪神社で軽くお礼参りをし、無事帰宅。

普通の旅ならば、今日のように複数の見知らぬ人から話しかけられることはほとんど無い。オートバイは、コミュニケーションをスムーズにしてくれる不思議な力があるのかな。

綺麗でも可愛くも若くもない、髪はぺったんこで疲れ果てた仏頂面、でかい身体、ごついライディングスタイル、どこをどうとっても親しみやすさなど感じられないのに。見知らぬ人たちは、向こうから近付いて、気軽に声をかけて行く。

普段はコミュ障と言われるほど不器用なのに、今日のような日はへらへらと応答する自分がいる。オートバイには不思議な力があるらしい。

実は、ほんとうは、今日の決行を迷っていた。決めてから数日でも間が空くと良からぬことばかり考えてしまう。なぜ、自分は、今、バイクに乗らなければならないのか。

事故ったらどうするのか。冬の疲れが出ていたり、身体の調子もベストではない。乗らない理由はいくらでも思いついた。
乗るための理由は、誰でもたぶん同じだろうと思う。乗りたいから、ただそれだけではないのか。その思いが、決めてから数日、数時間経過するほどに変化してしまうのだ。怖いという気持ち、それだけのお金を使う価値があるのかという疑問。
それらを打ち負かして、走って良かったと本当に思う。春の街道は素晴らしかった。そして、また少し自信を取り戻し、好きだった自分を取り戻した、そんな気がする。

・・・おまけ・・・

母の話。自転車で帰り道、母のことを思った。もしかして、メールが入っているかも?帰宅時に家の前にいるかも?そう、バイクに何度か乗ったことはいまだに内緒なのだ、実家ときょうだいには。

家の前にはいなかった。駐輪場に自転車を止めて振り返ると、見覚えのあるシルエットが・・・母だった。夜逃げのような荷物をみつからないように、お土産を渡すからと実家へ促した。

「どこへ行ってきたの?」

「長町。そこで売ってたからおはぎ買ってきたから」

自転車でいつも行くIKEAのある街の名前を告げた。

母の勘は、ほんとうに怖ろしい。秘密にしてどこかへ出かけると、大抵メールが入っていたり、部屋を訪ねてきたりする。嘘が下手というか、大抵バレてしまいがちな私が、いつまでこの状態を続けられるのかは不明だ。

さいちのおはぎと、秋保大滝不動尊御開帳の堂内にあった鯛みくじ。6番、大吉。「ふる雨はあとなく晴れてのどかにもひかげさしそう山ざくらばな」なんと素晴らしいメッセージか。

★場所の情報など

秋保・里センター:https://akiusato.jp/

主婦の店 さいち:〒982-0241 宮城県仙台市太白区秋保町湯元薬師27

慈眼寺:https://www.jigenji-sendai.com/

西光寺(秋保大滝不動尊):〒982-0244 宮城県仙台市太白区秋保町馬場大滝11

秋保温泉 華乃湯:https://www.hananoyu.com/

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